2020年ベスト旧譜レビュー (20枚)
旧譜をいろいろと聴いたのでその中でよかったものを挙げていく。以下リリース順。
Kinks Are the Village Green Preservation Society (1968) / The Kinks
キンクスにもハマって何枚か聴いた。これと『Something Else』が鉄板。当時のロックの潮流としてはキンクスは保守派にあたるらしいがサウンドにはそんな雰囲気は感じない。「Do You Remember Walter?」のヘヴィな音使いが今聴いても新しい。「Last of the Steam-Powered Trains」のガチャガチャしたハーモニカの音もいい。ブルースへの懐古が歌われた曲だが、決して旧套墨守な雰囲気にならずに、外部の視線を意識した音作りに落ち着いているところにこのバンドの巧緻を感じる。メロディのセンス良すぎ。
favorite tracks: Do You Remember Walter?, Picture Book, Big Sky
BAND WAGON (1975) / 鈴木茂
鈴木茂のソロ第1作目なのだが、録音がまあ良すぎる。45年前とはとても思えない。グルーヴが強くAメロBメロを行ったり来たりするシンプルな構成が多いが、ギターがとにかく冴えている。「砂の女」は特に凄まじい(安部公房要素がまったくないのが気になるが…)。名盤中の名盤。
favorite tracks: 砂の女、八月の匂い、100ワットの恋人
Music For Nine Post Cards (1982) / Hiroshi Yoshimura
今年になって初めて知った作曲家によるアンビエントアルバムで、音の配置に細心の注意を払っているのがわかるほど、音響が研ぎ澄まされている。40年近く前の音楽とはとても思えない。同じ電子音なのに多角的なパースペクティブによって寒暖を帯びているのが印象的。これを聴いている間は自然な態度でいられる。無常。
Spirit of Eden (1988) / Talk Talk
世の中にはこんな音楽をやってたらすぐに解散しちゃうなと感じるバンドがあって、たとえばそれはSlintだったり、the cabsだったり、ビートルズだったりするのだが、Talk Talkもこれに当てはまる。80年代末のアルバムながら今聴いても新しい。『Laughing Stock』のほうが好きかも?と思ったけどとりあえず。その後ポストロックに継承される轟音/ミニマル/室内音楽の要素がすべてある。マーク・ホリスの声がいい(すでに亡くなっているのが惜しい…)。アートワーク含め神話的で、その静謐さはロックの範疇を超えている。
Yield (1998) / Pearl Jam
パールジャムにハマって何枚か聴いたが、グランジバンドとしての側面が大きいにも関わらず自分としてはパールジャムの轟音がそんなに好きじゃない。ので、ファンからは評価の低い一枚だが個人的なベストアルバムである。エディの多彩なボーカルワークと諧謔に満ちた歌詞と、ジャケとイメージを接する、グランジ色の薄いアメリカーナなサウンドがいい具合にマッチしている。「Faithful」「No Way」がベストトラック。過渡期の一枚。
favorite tracks: Faithful, No Way, Do the Evolution
超名盤。これまで聴かなかったことを後悔した。太宰治チックというか、ウェルベック的というか、独り身の男の被害妄想やセンチメンタルがアルバム全体を覆っている。歌詞がどれもすばらしい。「ナイトクラブ」の菊地成孔のサックスがおそろしく良い。危険な緊張感がある。9トラック目の「新しい世界」がとにかく良くて、後半約3分にわたるアウトロに圧倒される。センスが良すぎる。デビューアルバムでこの完成度は異常だと思う。
favorite tracks: 真っ赤な車, ナイトクラブ, 人の住む場所, 新しい世界
Cicada (1999) / 槇原敬之
マッキーの天才が横溢している名盤。これをリリースした翌月に本人が覚醒剤所持で捕まったため本アルバムは回収されることになった。冬に聴くと場違い感を起こしそうなくらいに「夏」をコンセプトにしたアルバムで、歌詞もメロディもあまりに良すぎる。これを出すまでに前作から1年8ヶ月しか経っていないのも凄い。必聴。
favorite tracks: Hungry Spider, 青春, Future Attraction
ふれるときこえ (2005) / トルネード竜巻
このレベルの作品が15年も前に出ていたのか!という驚き。音質がとてもいい。昨今のポストボーカロイドに通じる音楽性・世界観(今出ていたらもっと人気が出ていたかも)をプログレ/実験音楽的にパッケージングした、きわめてJ-POP的でありながらどこかねじくれた曲群。ひじょうな名作なのでぜひとも聴いてほしい。個人的なベストトラックは「君の家まで9キロメートル」。変な曲名だが聴くとそうも言ってられなくなる。このバンドが歌う「会いたい」はまったく鼻につかないのが凄い。
favorite tracks: 君の家まで9キロメートル, あなたのこと, パークサイドは夢の中
Little Drummer Boy (2006) / Mark Kozelek
‘03年から’06年にかけてのライブ録音。これを夏の終わりや秋の夜長に聴くととても良い。Red House Painters、ソロ名義、Sun Kil Moonそれぞれの曲が1本のクラシックギターで爪弾かれるが、アレンジのない素の状態でここまで聴かせるのは天賦の才。
非常によろしい。感情がごっちゃごちゃになったままつまずきそうになりながら思考の流れを垂れ流す感じがたまらない。「僕が白人だったら」は日本人の白人コンプレックスに痛烈に切り込んでいて聴いていて気持ちいい。andymoriほどスムーズに個人的問題から政治的問題へ移行する歌詞を書けるバンドはいないのではないか。僕がアニメを作ったらEDはぜひ「すごい速さ」で頼む。
favorite tracks: everything is my guitar, ベンガルトラとウィスキー, すごい速さ
ほぞ (2010) / Climb The Mind
ジャパニーズオルタナのカルト的名盤。カポの高いアルペジオで始まる「ベレー帽は飛ばされて」から終わりの「つげ」まで、生活のシーンを高解像度で切り取った歌詞が特徴。マスロックからオルタナロックへの過渡期に作られただけあって日本的としかいいえない独特な音をしていると思う(ボーカル山内の演歌的な歌い方もいい)。「死」を主題に据えたアルバムだと思う。表題曲の「ほぞ」がとにかく凄いので、これだけでも聴いてほしい。ただサブスク配信もしておらず中古でプレミア価格がついているアルバムなので、食指は動きづらいが…。
favorite tracks: ベレー帽は飛ばされて, ほぞ, 困ったサンは背中を押されて, つげ
via nowhere (2016) / bed
ギターアンサンブルが非常に心地よい。轟音の重ね合いによって変幻自在な叙情性が生まれている。ブッチャーズやBuilt to Spillの表現力を受け継ぎながら独自のポップスに昇華されていて凄い。全ヒマなな大学生に聴いてほしい。名盤。
favorite tracks: ヒマな2人, YOU, 誰も知らない
Cuidado Madame (2017) / Arto Lindsay
アートリンゼイというとギターをガチャガチャやっている人という印象しかなく、彼の音楽的な出自に関してはまったく無知だった。ブラジルで幼少期を過ごしたことからボサノヴァのリズムが多用される。民族的な太鼓とオルタナティブな音像の奇跡的な組み合わせ。AORとオルタナロックと現代音楽の自由な交差が楽しい。GRAPEVINEの「太陽と銃声」にそっくりな曲がある。
favorite tracks; Each to each, Ilha Dos Prazeres, Tangles
CAMELUS (2018) / peelingwards
激情系ハードコアでカッコがよろしい。最近こういう音楽を聴いていなかった。熱狂の中の冷めた目線を感じて良い。「like a seven」はチェンソーマンの主題歌にしてほしい。
favorite tracks: like a seven, hyousou, closer
For (2018) / uri gagarn
group_inouでMCをつとめていたcp名義の威文橋が中心になった変なバンドで、というのも元々ツインギター+ドラムの3ピース体制だったのが、その後ギターもドラムも早々に抜けて新しくベースとドラムが加わったのにもかかわらず、音楽性はそんなに変化していない。浮遊感のある威文橋のボーカルと奇妙な曲構成が特徴的で、なによりどんな感情で聴けばいいのか難しい。夢と現実の狭間、寝起きの頭で捉える世界…のような音楽。レギュラーチューニングの開放弦をここまでエモく響かせられるのは凄い。「IJDB」がとにかくいい。言葉少なながら喚起力はじゅうぶんにある。わりと真面目に「誰もやっていない音楽」だと思う。
favorite tracks: Few, IJDB, Owl
ai qing (2018) / KID FRESINO
何を聴けばいいかわからないときはいつもこれを聴いている。声が良すぎるしフロウも気持ちいいし何よりラップがうますぎる。客演が豪華(NENE、Ryugo Ishida、鎮座DOPENESS、5lack、Campanella、ISSUGI、C.O.S.A.、JJJ)ながら、これはフレシノのアルバムだとしかいいようがない芯の太さがある。彼のインタビュー記事を読むと多くのアーティスト・楽曲にリファレンスが示されており、フレシノ本人が同時代のポップスに対しラッパー/トラックメイカーとして鋭く反応し、高い水準でそれに応えた名盤。
favorite tracks: Coincidence, Winston, Way too nice, Retarded
A Brief Inquiry Into Online Relationships (2018) / The 1975
正直今年の新譜は良いとは思わなかった。長すぎるというのもあるがどうしても一昨年に出たこっちと比べてしまう。紛れもない傑作だと思う。The 1975はジャンル横断的なロックをやっているがその軽薄さから敬遠してしまう人も多い。しかしその軽薄さがインターネットの人間関係の稀薄さと共鳴したら?名盤に決まっている。
favorite tracks: TOOTIMETOOTIMETOOTIME, Sincerity Is Scary, It’s Not Living (If It’s Not With You)
Back To The 80's (2019) / ザ・リーサルウェポンズ
コミックバンドながらメロディのセンスが卓越している。どこか懐かしいシンセとユーモアに溢れた歌詞が持ち味。たまに死ぬほどエモい。「シェイキン月給日」がたまらなくいい。アウトロのシンセが泣かせにきてる。もっと有名になって良いと思う。
favorite tracks: 80年代アクションスター, シェイキン月給日, ホッピーでハッピー
i,i (2019) / Bon Iver
ボンイヴェールはその難解さから高校の時『22, A Million』を聴いて以来避けていたが、こっちはポップで聴きやすく良かった。コーラス主導の美しく力強いアンサンブルが特徴的。なんで去年聴かなかったんだろう?
favorite tracks: Hey Ma, U (Man Like), RABi
GODBREATH BUDDHACESS (2019) / 舐達麻
舐達麻は本当にいい……Green Assassin Dollarのローファイなトラックももちろん素晴らしいが、なんといってもBADSAIKUSH、G-Plants、Delta9kidのリリックがとにかく冴え渡っている。「GOOD DAY」のフックなんか特にすごい。諸行無常のニューバージョンという感じがする。特に衝撃だったのはバダサイの「声が小さくて聞こえねえ意見/傾ける耳考える意味続ける明日明後日」というリリック。声が小さいことを肯定するギャングスタラップをはじめて聴いた。他にも言いたいことは色々あるが(フィッシャー『資本主義リアリズム』との接点など)現代のヒップホップシーンを大きく上書きする一枚。
favorite tracks: GOOD DAY, 100MILLIONS, FLOATIN'