Album of the Year 2021 (20→1)
緒言
2021年は(去年と比して)あるていど音楽の聴き方がわかってきて、それなりに自分の好みがはっきりしてきた年だった。「エモい」「緊張感がある」「かっこいい」「歌詞がいい」集約するとこの4つの要素を重視している。ので、僕の選び方はたぶんだいぶ偏ってるんではないかと思う(ので、そこそこおもろいランキングにはなっているはず)。あとlastfmをやり始めたので今年一年に聴いた音楽をデータとして集計することができ、年始に出たやつは印象が覚えられへんから外す〜なんてこともなくなった。いろんなジャンルにハマって、それはそれで楽しかったと思う。以下2021年のベストアルバムを20枚選び、それぞれに簡単なコメントを付した。読んでもらえばわかるように僕の所見は超印象批評的なので、楽曲/アルバムの細かい分析に立ち入ることはしない(できないし、そうすると必然的にカタカナが増えて嫌なため)。
凡例
・(アルバム名) / (アーティスト名) + SPT の順です
・SPT=Scrobbles Per Total: lastfmを使って集計したscrobble数をアルバム全体の曲数で割って数値化したものです。多いとたくさん聴いたことになります
・fav =お気に入りの曲(favorite tracks)です
・リリース日、レーベルはわかるかぎりで出しています。悪しからず
20. 昼に睡る人 / uami (6.00)
11/24, CONNECTUNE
つい最近聴いてあまりによかったので入れた(一応「ファーストアルバム」なので大丈夫)。ボイスアンサンブルと音の揺れる感覚が心地よい。溶解しそうでギリ形を保っている音像、わかりそうでギリわからない歌詞もいい。鋭利な感覚の日常を生きている錯覚。「きにしない」の歌詞がいい(僕のスマホもすぐに40%減る)。
fav: 弾けて, はるのめざめ, きにしない
19. 20, Stop It. / KID FRESINO (6.76)
1/9, Dogear Records/AWDR/LR
フレシノのフロウが好き。前作『ai qing』もとてつもない傑作だったがこっちもよかった。フレシノ自身トラックメイカーなこともあって音と声の相即する感じはもちろんなのだが、生音に対するこだわりが楽曲の説得力を増していると思う(ライブでそのストイックさはありありと感じられる)。客演もひじょうによい。そろそろカネコアヤノと長谷川白紙をちゃんと聴こうと思う。「Rondo」のトラック元になったSkullcrusherもかなり良いのでぜひ聴いてみてください。
fav: No Sun, Cats & Dogs, youth
18. 月の兎はヴァーチャルの夢を見る / 月ノ美兎 (4.90)
8/11, SACRA MUSIC
超豪華な布陣で隙がない。いろんな月ノ美兎像が見られる。特に「ウラノミト」と「浮遊感UFO」は本当にいい。こんなに良い曲があるか?というくらいには。この二曲だけでもぜひ聴いてみてほしい。あとは特にコメントはないです。僕が月ノ美兎を好きなので入れました。
fav: ウラノミト, 浮遊感UFO, Moon!!
17. The Long and Short of It / quickly, quickly (6.00)
8/20, Plancha
まさかの20歳(!)。音がすごくいい。エレクトロニカとジャズとエモのみずみずしさが楽曲に生命を与えている。ベッドから起き上がるのが億劫な、ちょっとばかり鬱屈した感覚があるのもいい。なにもかもうまくいかないが、私たちはどうにかやっていくしかない。そういうものを大事にしていると思う。とてもいいと思います。
fav: Come Visit Me, Everything is Different (to Me), Wy
16. Lei Line Eon / Iglooghost (6.50)
4/2, Gloo
イグルーゴーストを聴くと(拙劣な例えで恐縮だが)ポケットモンスターブラック/ホワイトに出てきたNを思い出す。玩具があちこちに捨て置かれた真っ白い部屋、子供たちの危険な遊戯、抽象的存在の影、現実の内奥に根ざす神秘…そのようにしか言うことができない、とても具体的かつ曖昧な音。キミの目でぜひ確かめてほしい。僕にはこれを十全に語りおおせる能力がない。
fav: Sylph Fossil, Zones U Can't See, Amu (Disk•Mod)
15. By the Time I Get to Phoenix / Injury Reserve (6.09)
9/15, self-released
これを聴いてから、中心メンバーのグロッグスが去年に亡くなったことを知った。もし今も生きていたら…とどうにもならないことを考えてしまう。トラックがひじょうに良い。ジャケットも完璧。「Knees」が本当にいい。僕がアニメを作ったらEDで流したい。さまざまな意味で「別れ」を想起させるアルバム。火事による砂塵のイメージが強い。ショーは続かなくてはならない。
fav: Superman That, Postpostpartum, Knees
14. moana / 踊ってばかりの国 (5.66)
6/2, FIVELATER
これまで踊ってばかりの国にはずっと苦手意識があったがこれはすごい。人間賛歌。こんなに人間を肯定する音楽があるのかと思ってしまう。下津光史のメロディセンスは異常としかいえない。なぜこんなアルバムが作れてしまうのか?いやすごい…喜、怒、哀、楽、すべての感情・感覚がひとつの言葉、ひとつの音楽に集約されている。鬱状態とか躁状態とか、そうした腑分けからは超然としたたたずまいさえある(抽象的なことしか言ってないな…)。
fav: Twilight, Mantra song, ひまわりの種 (2021)
13. LP! / JPEGMAFIA (6.65)
10/22, Republic・EQT
JPEGMAFIAむず〜ってなってたけどなんとなくわかってきた(もちろん本人は容易に理解されることを拒むだろう)。耳に刺さる(文字通り音が鋭利すぎて痛いくらい)ギラギラしたトラックがJPEGMAFIA像をとおして私たちを逆照射する。JPEGMAFIAの匿名性は私たちが知らず知らずに獲得した匿名性を探り当てている。サブスクで配信しているものとbandcampで配信しているオフラインバージョンがあるが、ぜひ後者の版で聴いてみてほしい(内容にかなり異同がある)。ただ僕がやっと捉えきれたと思ったJPEGMAFIA像も、その次の瞬間にはするりと抜け出てしまうのだろう。
fav: DIRTY!, WHAT KINDA RAPPIN' IS THIS ?, DAM! DAM! DAM!
12. 終わりのカリカチュア / Mom (4.63)
7/28, Victor Entertainment
去年についで非常な傑作。この時代(まさしくこの時代!)への怒りを全的ににじませながら、Momは感情のハードとソフトを同時に差し出す。そこにはなにもかもを包み込もうとする優しさがあるが、僕はその優しさに危険なものを見てしまう。この世界への厭世感ゆえの、別の空間への出口を求める試みはたえず失敗する。だからこそ這い進むことしかできない。私たちは這い進まなければならない。僕はうまくやれるだろうか?みんなうまくやれるだろうか?
fav: フェイクグリーン, 祝日, Momのデイキャッチ
11. 新しい果実 / GRAPEVINE (11.4)
5/26, SPEEDSTAR RECORDS
17枚目のアルバム(!)。このバンドはどこまで行くのだろう。まさに「堂に入ったお家芸」である。このタイトルで、この歌詞で、このギターサウンドでこの感覚を表現するような音楽はGRAPEVINEにしかできない。陳腐だが「深み」がある。「ぬばたま」なんか本当にすごい。阿吽の呼吸のバンドアンサンブル。初回限定盤に付いてくるライブ音源「FALL TOUR 2020 at Nakano Sunplaza」も鳴りがいいので(選曲もいい)ぜひ聴いてみてほしい。すばらしいバンド。
fav: 目覚ましはいつも鳴りやまない, 居眠り, ぬばたま
10. Drunk Tank Pink / shame (8.36)
1/15, Dead Oceans
イギリスのポストパンク勢の中では一番好きかもしれない(SquidやBCNRも聴いたがいまいちピンとこなかった)。テンションが高く、バンド全体で盛り上がる感じがいい。あと単純に音がかっこよくて好き。疾走感とスローなテンポをうまく取り合わせている。「Born in Luton」は圧巻の一言。音の重ね方(とギターの凄み)に鬼気迫るものを感じる。傑作。
fav: Born in Luton, March Day, Harsh Degrees
9. Cull Ficle / Asian Glow (5.78)
3/17, 2402437 Records
今年は韓国のインディーをよく聴いた。これもその一枚。何語だかわからん歌詞とローファイなアコギ主体の楽曲群が(ほとんど)勢いだけで53分を突っ切る。相当変な曲作りをしていると思う。曲によっては音質が悪すぎて音がつぶれているように聴こえるのもあるが、下手すれば全部同じ曲にしか聴こえないが、たとえば夏の暑い時期にこれを聴けば、そんなものはどうでもよくなる。美メロの入れ方がうまい。「こんなのありか!」って絶対に思うので、ぜひ聴いてみてほしい。
fav: No Exit, A Big Karismatic Dukie, Yes It Is
8. Notes With Attachments / Pino Palladino & Blake Mills (11.00)
3/12, Impulse! Records
これはマジで最高。こんなに音のいい空間があるのかと思う。鳴る音すべてにフレッシュさがある。人間どうしがきわめて密な室内音楽の妙がここに詰まっている。2月ごろ音楽が聴けなかった時期にこれだけはたくさん聴いた。教習所の仮免試験のときも聴いていた。「Ekuté」が非常にかっこいい。ドラムの入りが最高すぎる…すべての音が最小限に抑えられており、それが演奏にほどよい緊張感を与えて楽曲の質感を高めているように思う。ベテランならではの一枚。ここにもサム・ゲンデルがいる…
fav: Just Wrong, Ekuté, Djurkel
7. Fresh Bread / Sam Gendel (4.76)
2/26, Leaving Records
白状すると通しで2回しか聴いてないのだが、めちゃくちゃいいので選んだ。2021年はサム・ゲンデルに終始注目しつづけた年だった。サム・ゲンデルのエッセンスがここに詰まっている。人を食ったような音作りではありながら、それが奇妙な心地よさを生んでいる。とてもよろし。これとエイフェックスのSAW2しか聴いていない時期があった(思い出すのも嫌な時期)。心の支えになった一枚。「ジャズ」というジャンルに閉じ込めておくにはもったいない。『ユリイカ』レイ・ハラカミ特集号のカルロス・ニーニョのインタビューによれば彼もハラカミを聴いていたとのことで、それをふまえて聴いてみるとおもしろいかもしれません。グッドアンビエント。
fav: Eternal Loop, Alto Voices, Cruzin Wit
6. Seance / Maxine Funke (8.28)
7/19, A Colorful Storm
マキシン・フンケの4枚目(?)。「Seance」(降霊)というタイトルさながら、この世とあの世をつなぐ感のある雰囲気が楽曲全体にある。7曲26分と短いがアルバムとしての強度は高い。アコギの爪引きとローファイな録音の接合がうまく、非常に凝っていると思う。夏の涼しい空気。お彼岸の時期に聴きたい一枚。「Lucky Penny」は旋律だけでなく歌詞もほんとうに美しい。沈黙は金。
fav. Fairy Baby, Quiet Shore, Lucky Penny
5. You've Been Thru a Lot, But You're Beautiful / Painted Worlds (8.1)
7/16, self-released
ペインテッド・ワールズ2作目にしてラストアルバム。「ペインテッド・ワールズは、現代世界の倦怠感や孤独感と折り合いをつけていくために、幻滅や無常に直面しながらも、芸術、愛、真摯さを受け入れることについてのソロプロジェクトである」(bandcampより)。とにかくエモい。ミッドウェスト感強めのエモ。ギターだけでじゅうぶん聴ける。僕好みの音すぎるので選んだ。「ok buddy」がほんとうにいい曲なのでこれだけでも聴いてほしい(歌詞がオタクすぎて最高)。特になし。
fav. Strawberry Blonde, ok buddy, Dark Claymore +10
4. dimen / NOT WONK (11.8)
1/27, cutting edge
すごい。最初に聴いたとき、こんなにやって大丈夫なのか?と思うくらいすごかった。一つの曲の中にあらゆるジャンルが包摂されており、しかもそれぞれがお互いの持ち味を殺していない。きわめて綿密につくられていると思う。「ロックは死んだ」勢にぜひ聴かせたい。特に「get off the car」→「200530」のつなぎといったら!カタルシスがヤバい。異次元の疾走感である。この先10年は余裕で聴けるアルバムだと思う。それくらいすごい。音楽に驚くと、音楽って楽しいな〜と感じる。2021年国内音楽一位。語彙力がなさすぎるが、まだの人はぜひ聴いてください。
fav: in our time, 200530, your name
3. Music for Saxofone & Bass Guitar More Songs / Sam Gendel & Sam Wilkes (12.77)
7/21, Leaving Records
サム・ゲンデルとサム・ウィルクスの共作2作目!めっちゃいい。聞こえてくる音がすべて心地よい。「I Sing High」は百合ソング。注意して聴き込んでも読書中に聴き流しても空間にマッチする。これの「Caroline No」のカバーはペット・サウンズにどハマりするきっかけになった。(28分しかないのもあって)何度聴いてもいいものはいい…優しい。今後もたくさん聴くことになるだろう。サム・ゲンデル、サム・ウィルクス、ありがとう…。
fav: I Sing High, Caroline No, Greetings to Idris More Songs
2. To See the Next Part of the Dream / Parannoul (9.7)
2/23, self-released
今年はパラノウルと感傷マゾをそれぞれ別の文脈から、しかし(奇妙なほど?)同時代的な意匠として知ることができた年だった。あまりに青い。7〜8月ごろ、キャンパス間を往復するバスに揺られながら大音量でずっと「White Ceiling」を聴いていた。僕は青春に敗退した者ではある(かもしれない)が、その敗退を埋め合わせようとするほど意識的なわけではない。しかし青春はそこに「在る」。リリイ・シュシュのすべて、NHKにようこそ!、その他もろもろゼロ年代のモチーフをうまく接合しながら青春の「顕」(ダ・ヴィンチ・恐山)を突きつける。これはすごい。すごすぎる。天才です。
fav: Beautiful World, Analog Sentimentalism, White Ceiling
1. Nurture / Porter Robinson (8.28)
4/23, Mom+Pop
前作から実に7年ぶりにリリースされた大傑作。美しい。ただただ美しい。この世のものではないような危うさもありながら、それを超えてくる優しさがある(と思う)。あんまりにポップなんでそのうち飽きるだろうな〜と思ったけどけっきょく年内をとおしてずっと聴いていた。「Mother」にはLOSTAGEの「こぼれ落ちたもの」とテーマを同じくしている気がする。電子音の選び方がとても上手い。空間の作り方がとても丁寧。非常にいい。すばらしい。ちゃんと生きようと思う。ポーター・ロビンソンありがとう。2021年ありがとう。
fav: Look at the Sky, Mother, Something Comforting