legazpionmusic

音楽にかんすること。

【旧譜編】Albums of the Year 2021 (20→1)

・凡例は今年の年間ベスト記事を参照

 

20. Slave Ambient / The War on Drugs (4.50)

Slave Ambient

Slave Ambient

music.apple.com

2011, Secretly Canadian

 ウォー・オン・ドラッグスはめちゃくちゃいい。冬そのものといえる音の連なりもすばらしいが歌詞もいい。周期的なギターのリズムにハマること間違いなし。アメリカのインディー音楽の醍醐味。

fav: Brothers, I Was There, Your Love Is Calling Your Name

 

19. Prelúdio / Fabiano do Nascimento (4.70)

Prelúdio

Prelúdio

  • Fabiano do Nascimento
  • ラテンジャズ
  • ¥1528

music.apple.com

2020, New-Again

 ゆる〜いジャズハマりがあってよく聴いた。低い温度で燃えている炎のような音楽。ひじょうにカッコいい。いいな〜と思ってたらサム・ゲンデルとも組んでいたらしくなるほどと思った。

fav: Rio Tapajaós, Mental Azul

 

18. Selected Ambient Works Volume II / Aphex Twin (5.50)

music.apple.com

1994, Warp

 今年の2〜3月、なにも聴けなくなった時期によく聴いた。日中と就寝前、なにを聴いてもダメなのでこればかり聴いていた。茫洋とした気分によく合っていた(と思う。今はもうその精神状態から脱したのでよく覚えていないが)。ねこぢるが普段からよく聴いていたのもわかるが、これをずっと聴いていると飲み込まれるものがある…。

fav: #3, #4, #5

 

17. LP5 / Autechre (6.45)

LP5

LP5

  • Autechre
  • エレクトロニック
  • ¥1528

music.apple.com

1998, Warp

 今年下半期はオウテカにもハマった。どこから取っ付けばいいかわからない複雑な音楽性のために2、3枚アルバムを聴いてそれっぱなしになっていたが、これはめちゃくちゃいい(ついでに他のアルバムも聴き返すようになった)。「Rae」は本当に良い。ぼやっとした音像に輪郭のパキッとしたパーカッションが乗っかるとこんなにカッコいいのか…。冷たい鉄のような音楽。ベタだが『BLAME!』のサントラとして聴けると思う。

fav: Rae, Under BOAC, Drane2

 

16. Analog Fluids of Sonic Black Holes / Moor Mother (6.46)

Analog Fluids of Sonic Black Holes

Analog Fluids of Sonic Black Holes

  • Moor Mother
  • エレクトロニック
  • ¥1528

music.apple.com

2019, Don Giovanni

 ムーア・マザーは近年活動領域がいちじるしい、現代アフロフューチャリズムを領導する存在ともいえる(ラシーダ・フィリップスと共同でBlack Quantum Futurismというコレクティヴを主催している)。聴けばわかるが電子音だけとは思えないほど音が生々しく、その鋭利な物音や吐き捨てられる言葉は、不断に私たちに過去への応答を呼びかける。35分と短いながらも、これを聴くと意識になんらかの変容がもたらされるのは事実だと思う。ぜひ聴いてみてほしい(今年出た新譜もよかった)。

fav: Don't Die, After Images, Black Flight

 

15. Loop-Finding-Jazz-Records / Jan Jelinek (7.25)

Loop-Finding-Jazz-Records

Loop-Finding-Jazz-Records

music.apple.com

2001, Faitiche

 ヤン・イェリネクといえばこれ!って感じなのだろうか。しかしこれは本当にいい。いったい20年も前にどうやってこんな音を作ったんだろうか(しかも文字通りジャズのLPのサンプリングから)…小気味いいグリッチと揺れる音像が気持ちよく、何度でも繰り返せる。こんなにピッタリ来るような音はなかなか作れない。

fav: Moiré (Piano & Organ), Rock in the Video Age, Moiré (Strings)

 

14. Drooled and Slobbered / Dringe Augh (7.45)

Drooled and Slobbered (Deluxe Edition)

Drooled and Slobbered (Deluxe Edition)

  • Dringe Augh
  • シンガーソングライター
  • ¥1528

music.apple.com

2013, Electric Muse

 一聴して、ああニック・ドレイクがめっちゃ好きなんだろうな…と思うくらいニック・ドレイクみの強い音楽。冬によく合う。ギターがめちゃくちゃ上手く声もめちゃくちゃ良い。lastfmのページを見てみると聴いている人間が少なすぎてあんまりなので、本当にみんなに聴いてほしい。日本にもよく来てくれる。よければぜひ関西にも来てください。めっちゃライブが見たいです。

fav: Sea, Raffle, Pervert

 

13. New Ways / Leif Vollebekk (8.10)

New Ways

New Ways

music.apple.com

2019, Secret City

 リーフ・ヴォルベックはカナダのSSWで、管見のかぎり僕のTLで聴いている人はまったくいない(というより僕くらいしか日本語で彼について話していない)。なんかやたらレビューなんかの評価が低いが、ここまで良い音楽もなかなかないと思う。特に「Never Be Back」は今年のベストくらいには好きで、この曲だけ一時間ぶっとおしで聴いたりもしていた。寒々しい空気に芽を出した火のような音楽。ほんとうにたくさんの人に聴いてほしい。この温度感の音楽はなかなかない。

fav: Never Be Back, Hot Tears, Blood Brother

 

12. 4444 / Sam Gendel (8.16)

music.apple.com

2017, Terrible

 今年に大量にリリースされた音源を聴いてからこっちを聴いてみると、まったくアンビエント色が見えなくてかなりビビると思う。アコギ主体のMPB的なメロディ(その点ではアート・リンゼイに近い?)とジャズ感強めの録音が相俟ってめちゃくちゃ高クオリティのSSWの名盤を生み出している。サム・ゲンデル、どんな音楽やってもうまいな…と思う。この路線で進んだサム・ゲンデルも見たかった。

fav: Children of Earth, Promise Is, Less But Better

 

11. SWEATER / NOUGAT (8.28)

music.apple.com

2020, self-released

 ポストハードコアの鳴りの下、倦怠と怒りがないまぜになった感情が空虚に語られる。今年の2〜3月ごろ、抜け殻みたいになった時期によく聴いた(そのときの気分とおそろしくマッチした)。なぜ生きているのかもよくわからず、かといってその虚脱感が真実味のあるものなのかもよくわからず、もっと言えばそれだけの判断力が落ちていることすらよくわからない時期。NOUGATや5kaiのように、抜け殻になったような状態と躁状態が奇妙に同期している音楽は非常にまれだと思う。よいバンド。今年の新譜もめっちゃよかったです(あれを待ってから年間ベストを作ればよかった…)。

fav: DAY BY DAY, 白紙になる, VLADIVOSTOK

 

10. The Fawn / The Sea and Cake (8.30)

music.apple.com

1997, Thrill Jocky

「Sporting Life」がめちゃくちゃ好き。音の響きに寂しさがある。しかしこれが97年とは…と思うくらい音のイメージが古びておらず、それはシーアンドケイクの音楽性が一貫しているからでは…とも思うが、とにかく良い。曲間がつながっているのでアルバムまるごとスムーズに聴ける。いやしかしSporting Lifeは大名曲だと思う…ここまで微に入り細を穿った感情をなぜ鳴らせるのだろうか?

fav: Sporting Life, The Argument, The Fawn

 

9. Insen / Alva Noto + Ryuichi Sakamoto (10.42)

Insen

Insen

music.apple.com

2005, Raster-Noton

 アルヴァ・ノトと坂本龍一の共作はどれも良い!なかでも本作は出色の作品。間隔を置いて鳴るピアノ(グリッチ)と、その間隙を縫うように聴こえるグリッチ(ピアノ)の交感がうつくしい。ノイズと鍵盤の対照にあてられながらも、足元が揺らぐどこか不安なところもあり、それが音像そのものに説得的に作用していると思う。これが16年前というのだから驚き。寒々としながら暖かみがある/暖かみがありながらどこか寒々しく感じるのは、両者の代補的な役割によるものか。

fav: Logic Moon, Moon, Berlin

 

8. Screws / Nils Frahm (10.66)

Screws

Screws

music.apple.com

2012, Erased Tapes

 マイベスト入り。今年はポストクラシカルにハマっていろいろと聴いてみたが、ニルス・フラームのこれが一番よかった。音の運びが真似できそうなくらいとてもシンプルなピアノなのに、なぜだかこの人にしかできない、と思わせるようなすごみがある。読書中によく聴いた。9曲28分と短く、アルバム単位で繰り返し聴ける。何度聴いても飽きない/何度でも聴かせてくれる、静かな領域に揺曳するアンビエント。たしかな力を感じる。

fav: なし

 

7. PESTPOOM / 中華戦争 (11.25)

music.apple.com

2020, Ushirecords

 EPだが非常に好きなのでランクイン。ケッタイなバンド名とケッタイなアルバム名がいい。「台北的士」(大名曲)がほんとうに好きで、これだけアホみたいに聴いた。焦燥感と安堵感の配分がいい。SoundCloudに上がってる飲酒運転ver.も非常に良い。ライブがめちゃくちゃ見たい。ぜひ関西に来ることがあれば…

fav: 台北的士, 血まみれに見えた

 

6. The Nudes / Pele (11.37)

music.apple.com

2000, Polyvinyl

 サウンドを聴けばわかるようにペレはガッツリtoeの元ネタである。クリーントーン主体(というか演奏動画を見るに、エフェクターを一切使っていない(!?))のギターに手数の多いドラム、裏方に徹したベースと、ポストロックの条件をいいかんじに満たした良質なバンド。単なるBGM(この境界がとても危うい)に堕しない不思議なオリジナリティがある。浜風が感じられる音楽。

fav: Nude Beach. Pin Hole Camera, The Mind of Minolta, Visit Pumpy

 

5. grace / haruka nakamura (11.38)

Grace

Grace

  • haruka nakamura
  • エレクトロニック
  • ¥1528

music.apple.com

2008, schole

このアルバムは曲単位ではほとんど聴かず、一曲目を再生したらあとは最後まで聴き通してしまうことが多かった。これは本当に良い。サティが目指した意味での「家具の音楽」を志向していると思う。さながら私たちの影、私たちが普段まったく気にも留めないような物たちの群れ。音楽だけで「リズと青い鳥」を表現するとこんな感じになるんじゃないだろうか。ただ不思議なことにあまりに日常に馴染みすぎているためか何回聴いても聴いた気がしない(?)。無意識にまで浸透した、「(This Must Be) The Place」とも呼ぶべき場所から鳴る音楽といえよう。

fav: なし

 

4. Slow Glass/Farewell Echoes / SORASO (11.66)

soraso.bandcamp.com

2018, self-released

マジでみんなにSORASOを聴いてほしい。SORASOは仙台のバンドで、リリース作品こそ(まだ)少ないが楽曲のクオリティがおそろしく良い。一条の光芒そのもののような音楽。さながら今漕ぎ出したばかりの小さな小さな舟…「How Far is a Light Year?」が個人的に一番好き。ここまで切な希望を歌った音楽は本当に稀少だと思う。本当にすごい。もっといろんな人に聴いてほしい(のであちこちでオススメしている)。よければシングル「幻灯機」のほうも聴いてほしい。これを聴き終えるとまるで一本の良質なセカイ系映画を観終えた気分になる。新海誠はなぜSORASOを起用しないのか?

fav: How Far is a Light Year?, Philadelphia, 三月の舟

 

3. Judee Sill / Judee Sill (14.72)

Judee Sill

Judee Sill

  • Judee Sill
  • シンガーソングライター
  • ¥1630

music.apple.com

1971, Asylum

マイベスト入り。去年から聴いてたが今年のほうがよく聴いたので。(個人的に)ニック・ドレイクの声にはストリングスが合わないのだがジュディー・シルの声とはものすごく相性がいい。音が温かい。演奏がめちゃくちゃ上手い。神話的な歌詞が1〜2分の曲でさらっと語られる(この「なんでもなさ」の見せ方がすごい)。アルバムが「Abracadabra」の突然やたら壮大なオーケストラで終幕するので聴くたびに笑ってしまう(いまだにここがよくわからない)。しかしなにはともあれ天才である。もっと長生きしてほしかった…

fav: The Phantom Cowboy, The Lamb Ran Away With the Crown, Lady-O

 

2. 公衆道徳 / 公衆道徳 (17.37)

公衆道徳

公衆道徳

  • 衆道
  • シンガーソングライター
  • ¥1375

music.apple.com

2015, Cho Hyunjoon

マイベスト入り。公衆道徳は現在、空中泥棒(Mid-Air Thief)に名義を変えて活動している韓国のアーティストである。邦題が変なら曲も変で、あちこちから飛び道具的にいろんな音が高密度に鳴るので、一度聴いただけでは旋律をまったく覚えられない。これは本当にすごい。リスナーに対する信頼がなければこんな音楽は作れないだろう。「地震波」のアコギの単音から一息に視野が広がる感覚、「沼地」の反復による交感は驚愕である。これを聴くと爆笑してしまう。すばらしいバランス。大傑作。

fav: 地震波, ウ, 沼地

 

1. Pet Sounds / The Beach Boys (26.76)

music.apple.com

1966, Capitol

今年の9月、電撃的に《理解》ったタイミングが訪れ、それ以降狂ったように聴いていた。一時期は目覚めに一周、日中にとりあえず一周、就寝前に一周していた。この世のものなのだろうか?と疑ってしまうほど美しいコーラスに、中学生レベルの単語しか出てこないきわめて抽象的な歌詞…デビューから66年までのアルバムをひとわたり聴いてみたけど、これだけ明らかに毛色が違う。なにかが降りている。いやこの世界のほうがそれを前にして降りてしまったと言うべきか。B面の流れがとても良い。ここまで純粋なものを純粋なままパッケージングできているというのが驚異的だ。どこまで行っても「死」が揺蕩っているような、そんな一枚である。マイベスト入り。

fav: God Only Knows, I Know There's an Answer, Caroline No

Album of the Year 2021 (20→1)

緒言

 2021年は(去年と比して)あるていど音楽の聴き方がわかってきて、それなりに自分の好みがはっきりしてきた年だった。「エモい」「緊張感がある」「かっこいい」「歌詞がいい」集約するとこの4つの要素を重視している。ので、僕の選び方はたぶんだいぶ偏ってるんではないかと思う(ので、そこそこおもろいランキングにはなっているはず)。あとlastfmをやり始めたので今年一年に聴いた音楽をデータとして集計することができ、年始に出たやつは印象が覚えられへんから外す〜なんてこともなくなった。いろんなジャンルにハマって、それはそれで楽しかったと思う。以下2021年のベストアルバムを20枚選び、それぞれに簡単なコメントを付した。読んでもらえばわかるように僕の所見は超印象批評的なので、楽曲/アルバムの細かい分析に立ち入ることはしない(できないし、そうすると必然的にカタカナが増えて嫌なため)。

 

凡例
・(アルバム名) / (アーティスト名) + SPT の順です
・SPT=Scrobbles Per Total: lastfmを使って集計したscrobble数をアルバム全体の曲数で割って数値化したものです。多いとたくさん聴いたことになります
・fav =お気に入りの曲(favorite tracks)です
・リリース日、レーベルはわかるかぎりで出しています。悪しからず

 

20. 昼に睡る人 / uami (6.00)

Hiruninemuruhito

Hiruninemuruhito

  • uami
  • J-Pop
  • ¥1324

music.apple.com

11/24, CONNECTUNE

 つい最近聴いてあまりによかったので入れた(一応「ファーストアルバム」なので大丈夫)。ボイスアンサンブルと音の揺れる感覚が心地よい。溶解しそうでギリ形を保っている音像、わかりそうでギリわからない歌詞もいい。鋭利な感覚の日常を生きている錯覚。「きにしない」の歌詞がいい(僕のスマホもすぐに40%減る)。

fav: 弾けて, はるのめざめ, きにしない

 

19. 20, Stop It. / KID FRESINO (6.76)

20, Stop It.

20, Stop It.

  • KID FRESINO
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2139

music.apple.com

1/9, Dogear Records/AWDR/LR

 フレシノのフロウが好き。前作『ai qing』もとてつもない傑作だったがこっちもよかった。フレシノ自身トラックメイカーなこともあって音と声の相即する感じはもちろんなのだが、生音に対するこだわりが楽曲の説得力を増していると思う(ライブでそのストイックさはありありと感じられる)。客演もひじょうによい。そろそろカネコアヤノと長谷川白紙をちゃんと聴こうと思う。「Rondo」のトラック元になったSkullcrusherもかなり良いのでぜひ聴いてみてください。

fav: No Sun, Cats & Dogs, youth

 

18. 月の兎はヴァーチャルの夢を見る / 月ノ美兎 (4.90)

music.apple.com

8/11, SACRA MUSIC

 超豪華な布陣で隙がない。いろんな月ノ美兎像が見られる。特に「ウラノミト」と「浮遊感UFO」は本当にいい。こんなに良い曲があるか?というくらいには。この二曲だけでもぜひ聴いてみてほしい。あとは特にコメントはないです。僕が月ノ美兎を好きなので入れました。

fav: ウラノミト, 浮遊感UFO, Moon!!

 

17. The Long and Short of It / quickly, quickly (6.00)

The Long and Short of It

The Long and Short of It

  • quickly, quickly
  • エレクトロニック
  • ¥1528

music.apple.com

8/20, Plancha

 まさかの20歳(!)。音がすごくいい。エレクトロニカとジャズとエモのみずみずしさが楽曲に生命を与えている。ベッドから起き上がるのが億劫な、ちょっとばかり鬱屈した感覚があるのもいい。なにもかもうまくいかないが、私たちはどうにかやっていくしかない。そういうものを大事にしていると思う。とてもいいと思います。

fav: Come Visit Me, Everything is Different (to Me), Wy

 

16. Lei Line Eon / Iglooghost (6.50)

Lei Line Eon

Lei Line Eon

  • Iglooghost
  • エレクトロニック
  • ¥1528

music.apple.com

4/2, Gloo

 イグルーゴーストを聴くと(拙劣な例えで恐縮だが)ポケットモンスターブラック/ホワイトに出てきたNを思い出す。玩具があちこちに捨て置かれた真っ白い部屋、子供たちの危険な遊戯、抽象的存在の影、現実の内奥に根ざす神秘…そのようにしか言うことができない、とても具体的かつ曖昧な音。キミの目でぜひ確かめてほしい。僕にはこれを十全に語りおおせる能力がない。

fav: Sylph Fossil, Zones U Can't See, Amu (Disk•Mod)

 

15. By the Time I Get to Phoenix / Injury Reserve (6.09)

By the Time I Get to Phoenix

By the Time I Get to Phoenix

  • Injury Reserve
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1528

music.apple.com

9/15, self-released

 これを聴いてから、中心メンバーのグロッグスが去年に亡くなったことを知った。もし今も生きていたら…とどうにもならないことを考えてしまう。トラックがひじょうに良い。ジャケットも完璧。「Knees」が本当にいい。僕がアニメを作ったらEDで流したい。さまざまな意味で「別れ」を想起させるアルバム。火事による砂塵のイメージが強い。ショーは続かなくてはならない。

fav: Superman That, Postpostpartum, Knees

 

14. moana / 踊ってばかりの国 (5.66)

moana

moana

music.apple.com

6/2, FIVELATER

 これまで踊ってばかりの国にはずっと苦手意識があったがこれはすごい。人間賛歌。こんなに人間を肯定する音楽があるのかと思ってしまう。下津光史のメロディセンスは異常としかいえない。なぜこんなアルバムが作れてしまうのか?いやすごい…喜、怒、哀、楽、すべての感情・感覚がひとつの言葉、ひとつの音楽に集約されている。鬱状態とか躁状態とか、そうした腑分けからは超然としたたたずまいさえある(抽象的なことしか言ってないな…)。

fav: Twilight, Mantra song, ひまわりの種 (2021)

 

13. LP! / JPEGMAFIA (6.65)

jpegmafia.bandcamp.com

10/22, Republic・EQT

 JPEGMAFIAむず〜ってなってたけどなんとなくわかってきた(もちろん本人は容易に理解されることを拒むだろう)。耳に刺さる(文字通り音が鋭利すぎて痛いくらい)ギラギラしたトラックがJPEGMAFIA像をとおして私たちを逆照射する。JPEGMAFIAの匿名性は私たちが知らず知らずに獲得した匿名性を探り当てている。サブスクで配信しているものとbandcampで配信しているオフラインバージョンがあるが、ぜひ後者の版で聴いてみてほしい(内容にかなり異同がある)。ただ僕がやっと捉えきれたと思ったJPEGMAFIA像も、その次の瞬間にはするりと抜け出てしまうのだろう。

fav: DIRTY!, WHAT KINDA RAPPIN' IS THIS ?, DAM! DAM! DAM!

 

12. 終わりのカリカチュア / Mom (4.63)

Owari No Caricature

Owari No Caricature

  • Mom
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2546

music.apple.com

7/28, Victor Entertainment

 去年についで非常な傑作。この時代(まさしくこの時代!)への怒りを全的ににじませながら、Momは感情のハードとソフトを同時に差し出す。そこにはなにもかもを包み込もうとする優しさがあるが、僕はその優しさに危険なものを見てしまう。この世界への厭世感ゆえの、別の空間への出口を求める試みはたえず失敗する。だからこそ這い進むことしかできない。私たちは這い進まなければならない。僕はうまくやれるだろうか?みんなうまくやれるだろうか?

fav: フェイクグリーン, 祝日, Momのデイキャッチ

 

11. 新しい果実 / GRAPEVINE (11.4)

New Fruit

New Fruit

music.apple.com

5/26, SPEEDSTAR RECORDS

 17枚目のアルバム(!)。このバンドはどこまで行くのだろう。まさに「堂に入ったお家芸」である。このタイトルで、この歌詞で、このギターサウンドでこの感覚を表現するような音楽はGRAPEVINEにしかできない。陳腐だが「深み」がある。「ぬばたま」なんか本当にすごい。阿吽の呼吸のバンドアンサンブル。初回限定盤に付いてくるライブ音源「FALL TOUR 2020 at Nakano Sunplaza」も鳴りがいいので(選曲もいい)ぜひ聴いてみてほしい。すばらしいバンド。

fav: 目覚ましはいつも鳴りやまない, 居眠り, ぬばたま

 

10. Drunk Tank Pink / shame (8.36)

music.apple.com

1/15, Dead Oceans

 イギリスのポストパンク勢の中では一番好きかもしれない(SquidやBCNRも聴いたがいまいちピンとこなかった)。テンションが高く、バンド全体で盛り上がる感じがいい。あと単純に音がかっこよくて好き。疾走感とスローなテンポをうまく取り合わせている。「Born in Luton」は圧巻の一言。音の重ね方(とギターの凄み)に鬼気迫るものを感じる。傑作。

fav: Born in Luton, March Day, Harsh Degrees

 

9. Cull Ficle / Asian Glow (5.78)

Cull Ficle

Cull Ficle

music.apple.com

3/17, 2402437 Records

 今年は韓国のインディーをよく聴いた。これもその一枚。何語だかわからん歌詞とローファイなアコギ主体の楽曲群が(ほとんど)勢いだけで53分を突っ切る。相当変な曲作りをしていると思う。曲によっては音質が悪すぎて音がつぶれているように聴こえるのもあるが、下手すれば全部同じ曲にしか聴こえないが、たとえば夏の暑い時期にこれを聴けば、そんなものはどうでもよくなる。美メロの入れ方がうまい。「こんなのありか!」って絶対に思うので、ぜひ聴いてみてほしい。

fav: No Exit, A Big Karismatic Dukie, Yes It Is

 

8. Notes With Attachments / Pino Palladino & Blake Mills (11.00)

Notes With Attachments

Notes With Attachments

  • ピノ・パラディーノ & Blake Mills
  • ジャズ
  • ¥1324

music.apple.com

3/12, Impulse! Records

 これはマジで最高。こんなに音のいい空間があるのかと思う。鳴る音すべてにフレッシュさがある。人間どうしがきわめて密な室内音楽の妙がここに詰まっている。2月ごろ音楽が聴けなかった時期にこれだけはたくさん聴いた。教習所の仮免試験のときも聴いていた。「Ekuté」が非常にかっこいい。ドラムの入りが最高すぎる…すべての音が最小限に抑えられており、それが演奏にほどよい緊張感を与えて楽曲の質感を高めているように思う。ベテランならではの一枚。ここにもサム・ゲンデルがいる…

fav: Just Wrong, Ekuté, Djurkel

 

7. Fresh Bread / Sam Gendel (4.76)

Fresh Bread

Fresh Bread

  • Sam Gendel
  • ジャズ
  • ¥1528

music.apple.com

2/26, Leaving Records

 白状すると通しで2回しか聴いてないのだが、めちゃくちゃいいので選んだ。2021年はサム・ゲンデルに終始注目しつづけた年だった。サム・ゲンデルのエッセンスがここに詰まっている。人を食ったような音作りではありながら、それが奇妙な心地よさを生んでいる。とてもよろし。これとエイフェックスのSAW2しか聴いていない時期があった(思い出すのも嫌な時期)。心の支えになった一枚。「ジャズ」というジャンルに閉じ込めておくにはもったいない。『ユリイカレイ・ハラカミ特集号のカルロス・ニーニョのインタビューによれば彼もハラカミを聴いていたとのことで、それをふまえて聴いてみるとおもしろいかもしれません。グッドアンビエント

fav: Eternal Loop, Alto Voices, Cruzin Wit

 

6. Seance / Maxine Funke (8.28)

Seance

Seance

  • Maxine Funke
  • シンガーソングライター
  • ¥1071

music.apple.com

7/19, A Colorful Storm

 マキシン・フンケの4枚目(?)。「Seance」(降霊)というタイトルさながら、この世とあの世をつなぐ感のある雰囲気が楽曲全体にある。7曲26分と短いがアルバムとしての強度は高い。アコギの爪引きとローファイな録音の接合がうまく、非常に凝っていると思う。夏の涼しい空気。お彼岸の時期に聴きたい一枚。「Lucky Penny」は旋律だけでなく歌詞もほんとうに美しい。沈黙は金。

fav. Fairy Baby, Quiet Shore, Lucky Penny

 

5. You've Been Thru a Lot, But You're Beautiful / Painted Worlds (8.1)

You've Been Thru a Lot, But You're Beautiful

You've Been Thru a Lot, But You're Beautiful

  • Painted Worlds
  • ロック
  • ¥1528

music.apple.com

7/16, self-released

 ペインテッド・ワールズ2作目にしてラストアルバム。「ペインテッド・ワールズは、現代世界の倦怠感や孤独感と折り合いをつけていくために、幻滅や無常に直面しながらも、芸術、愛、真摯さを受け入れることについてのソロプロジェクトである」(bandcampより)。とにかくエモい。ミッドウェスト感強めのエモ。ギターだけでじゅうぶん聴ける。僕好みの音すぎるので選んだ。「ok buddy」がほんとうにいい曲なのでこれだけでも聴いてほしい(歌詞がオタクすぎて最高)。特になし。

fav. Strawberry Blonde, ok buddy, Dark Claymore +10

 

4. dimen / NOT WONK (11.8)

dimen

dimen

  • NOT WONK
  • ロック
  • ¥2241

music.apple.com

1/27, cutting edge

 すごい。最初に聴いたとき、こんなにやって大丈夫なのか?と思うくらいすごかった。一つの曲の中にあらゆるジャンルが包摂されており、しかもそれぞれがお互いの持ち味を殺していない。きわめて綿密につくられていると思う。「ロックは死んだ」勢にぜひ聴かせたい。特に「get off the car」→「200530」のつなぎといったら!カタルシスがヤバい。異次元の疾走感である。この先10年は余裕で聴けるアルバムだと思う。それくらいすごい。音楽に驚くと、音楽って楽しいな〜と感じる。2021年国内音楽一位。語彙力がなさすぎるが、まだの人はぜひ聴いてください。

fav: in our time, 200530, your name

 

3. Music for Saxofone & Bass Guitar More Songs / Sam Gendel & Sam Wilkes (12.77)

Music for Saxofone & Bass Guitar More Songs

Music for Saxofone & Bass Guitar More Songs

  • Sam Gendel & サム・ウィルクス
  • ジャズ
  • ¥1528

music.apple.com

7/21, Leaving Records

 サム・ゲンデルとサム・ウィルクスの共作2作目!めっちゃいい。聞こえてくる音がすべて心地よい。「I Sing High」は百合ソング。注意して聴き込んでも読書中に聴き流しても空間にマッチする。これの「Caroline No」のカバーはペット・サウンズにどハマりするきっかけになった。(28分しかないのもあって)何度聴いてもいいものはいい…優しい。今後もたくさん聴くことになるだろう。サム・ゲンデル、サム・ウィルクス、ありがとう…。

fav: I Sing High, Caroline No, Greetings to Idris More Songs

 

2. To See the Next Part of the Dream / Parannoul (9.7)

To See the Next Part of the Dream

To See the Next Part of the Dream

  • Parannoul
  • ロック
  • ¥1375

music.apple.com

2/23, self-released

 今年はパラノウルと感傷マゾをそれぞれ別の文脈から、しかし(奇妙なほど?)同時代的な意匠として知ることができた年だった。あまりに青い。7〜8月ごろ、キャンパス間を往復するバスに揺られながら大音量でずっと「White Ceiling」を聴いていた。僕は青春に敗退した者ではある(かもしれない)が、その敗退を埋め合わせようとするほど意識的なわけではない。しかし青春はそこに「在る」。リリイ・シュシュのすべてNHKにようこそ!、その他もろもろゼロ年代のモチーフをうまく接合しながら青春の「顕」(ダ・ヴィンチ・恐山)を突きつける。これはすごい。すごすぎる。天才です。

fav: Beautiful World, Analog Sentimentalism, White Ceiling

 

1. Nurture / Porter Robinson (8.28)

Nurture

Nurture

music.apple.com

4/23, Mom+Pop

 前作から実に7年ぶりにリリースされた大傑作。美しい。ただただ美しい。この世のものではないような危うさもありながら、それを超えてくる優しさがある(と思う)。あんまりにポップなんでそのうち飽きるだろうな〜と思ったけどけっきょく年内をとおしてずっと聴いていた。「Mother」にはLOSTAGEの「こぼれ落ちたもの」とテーマを同じくしている気がする。電子音の選び方がとても上手い。空間の作り方がとても丁寧。非常にいい。すばらしい。ちゃんと生きようと思う。ポーター・ロビンソンありがとう。2021年ありがとう。

fav: Look at the Sky, Mother, Something Comforting

レイハラカミについての断章

 僕がレイハラカミ(rei harakami)を最初に聴いたのはナンバーガールのレア音源集『OMOIDE IN MY HEAD 4 ~珍NG & RARE TRACKS~』所収のU-REIリミックスでのことだった。そもそもナンバーガールにリミックス音源があったとは想像だにせず、あんなバキバキのロックサウンドをどう電子音で有機的に調理するのか、ひじょうに不思議だった記憶がある。今聴いてみるとなるほど浮遊感があり、その音像の絶妙なマッチ具合にやはり不思議さを覚えずにはいられないが、当時どう考えていたのかは判然としない(最近むかしのことをどんどん忘れている。そのうち高校時代のことも記憶から消えるかもしれない)。
 高校当時、僕は毎週10枚TSUTAYA(もう潰れてしまった)で借りてきた音源を全部iPod Classicにぶち込んでちまちま聴いていた(高校三年になると経営難のためか10枚1000円キャンペーンは終わり、大学に入ってしばらくして僕はTポイントカードを更新しなくなった)。そこでおもに聴いていたエレクトロニカといえばAphex TwinSquarepusher、Burial、Underground、Boards of CanadaFour TetTelefon Tel Avivといった、要はひとむかし前のアーティストばかりで、もっぱらハードコアかマス・ポストロックばかり聴いていた。ロック耳でもわかる電子音楽家はどうしようもなく限られていたのである(当時も今もマニュエル・ゲッチングの『E2-E4』は好きです)。
 iTunesを確認するかぎりレイハラカミの『lust』をライブラリに追加したのは2017年の9月である。その前後は透明雑誌ギャラクシー500であり、eastern youthとFaith No Moreなのでかなり浮いている。じつは高校時代、というか最近になるまでレイハラカミはこれしか聴いてなかった。そのため僕にとってレイハラカミ=[lust]でありもっといえば[lust]=owari no kisetsuなのである。

[lust]

[lust]

music.apple.com

 はじめて(!注意!そんなもの憶えているわけないので「そういえばこんなだっけな〜」という薄い記憶で書いてます)聴いたときの印象は(それまで聴いてきた電子音楽からすれば)ややもすればシンプルで人懐っこい音という感じだった。それにこの音でこのジャケットなのもいい(EP-4の昭和大赦に似ている)。ちょっと寂しさが残って、「long time」で始まって、「joy」があって「after joy」があって…というエモ要素の過重積載に当時百合のオタクだった僕は大いに影響を受け、自分が書いた小説にも当アルバムを引用したくらいである。なにより信じられないのはRoland SC88-Proで曲が作られていることだ(YouTubeに上がっているデモ映像を見てもらえばわかるがひじょうにチープなMIDI音源が出る)。電子音楽の世界というのは日進月歩で、とにかく機材の新しさがものを言う界隈でありながら、レイハラカミは一貫して96年発売のDTM機材を使い続けた。どうやってあの音を作っていたのか不思議で仕方ないが、ある意味そこに込められたマジックこそあの純朴なサウンドの核にあるものなのかもしれない。

2020年ベスト旧譜レビュー (20枚)

 旧譜をいろいろと聴いたのでその中でよかったものを挙げていく。以下リリース順。

 

Kinks Are the Village Green Preservation Society (1968) / The Kinks

music.apple.com

 キンクスにもハマって何枚か聴いた。これと『Something Else』が鉄板。当時のロックの潮流としてはキンクスは保守派にあたるらしいがサウンドにはそんな雰囲気は感じない。「Do You Remember Walter?」のヘヴィな音使いが今聴いても新しい。「Last of the Steam-Powered Trains」のガチャガチャしたハーモニカの音もいい。ブルースへの懐古が歌われた曲だが、決して旧套墨守な雰囲気にならずに、外部の視線を意識した音作りに落ち着いているところにこのバンドの巧緻を感じる。メロディのセンス良すぎ。

favorite tracks: Do You Remember Walter?, Picture Book, Big Sky

 

BAND WAGON (1975) / 鈴木茂

music.apple.com

 鈴木茂のソロ第1作目なのだが、録音がまあ良すぎる。45年前とはとても思えない。グルーヴが強くAメロBメロを行ったり来たりするシンプルな構成が多いが、ギターがとにかく冴えている。「砂の女」は特に凄まじい(安部公房要素がまったくないのが気になるが…)。名盤中の名盤。

favorite tracks: 砂の女、八月の匂い、100ワットの恋人

 

Music For Nine Post Cards (1982) / Hiroshi Yoshimura

music.apple.com

 今年になって初めて知った作曲家によるアンビエントアルバムで、音の配置に細心の注意を払っているのがわかるほど、音響が研ぎ澄まされている。40年近く前の音楽とはとても思えない。同じ電子音なのに多角的なパースペクティブによって寒暖を帯びているのが印象的。これを聴いている間は自然な態度でいられる。無常。

 

Spirit of Eden (1988) / Talk Talk

Spirit of Eden

Spirit of Eden

music.apple.com

 世の中にはこんな音楽をやってたらすぐに解散しちゃうなと感じるバンドがあって、たとえばそれはSlintだったり、the cabsだったり、ビートルズだったりするのだが、Talk Talkもこれに当てはまる。80年代末のアルバムながら今聴いても新しい。『Laughing Stock』のほうが好きかも?と思ったけどとりあえず。その後ポストロックに継承される轟音/ミニマル/室内音楽の要素がすべてある。マーク・ホリスの声がいい(すでに亡くなっているのが惜しい…)。アートワーク含め神話的で、その静謐さはロックの範疇を超えている。

 

Yield (1998) / Pearl Jam

music.apple.com

 パールジャムにハマって何枚か聴いたが、グランジバンドとしての側面が大きいにも関わらず自分としてはパールジャムの轟音がそんなに好きじゃない。ので、ファンからは評価の低い一枚だが個人的なベストアルバムである。エディの多彩なボーカルワークと諧謔に満ちた歌詞と、ジャケとイメージを接する、グランジ色の薄いアメリカーナなサウンドがいい具合にマッチしている。「Faithful」「No Way」がベストトラック。過渡期の一枚。

favorite tracks: Faithful, No Way, Do the Evolution

 

夜に生きるもの (1998) / 高橋徹也

夜に生きるもの

夜に生きるもの

  • 高橋 徹也
  • ロック
  • ¥2139

music.apple.com

 超名盤。これまで聴かなかったことを後悔した。太宰治チックというか、ウェルベック的というか、独り身の男の被害妄想やセンチメンタルがアルバム全体を覆っている。歌詞がどれもすばらしい。「ナイトクラブ」の菊地成孔のサックスがおそろしく良い。危険な緊張感がある。9トラック目の「新しい世界」がとにかく良くて、後半約3分にわたるアウトロに圧倒される。センスが良すぎる。デビューアルバムでこの完成度は異常だと思う。

favorite tracks: 真っ赤な車, ナイトクラブ, 人の住む場所, 新しい世界

 

Cicada (1999) / 槇原敬之

Cicada

Cicada

  • 槇原 敬之
  • J-Pop
  • ¥2139

music.apple.com

 マッキーの天才が横溢している名盤。これをリリースした翌月に本人が覚醒剤所持で捕まったため本アルバムは回収されることになった。冬に聴くと場違い感を起こしそうなくらいに「夏」をコンセプトにしたアルバムで、歌詞もメロディもあまりに良すぎる。これを出すまでに前作から1年8ヶ月しか経っていないのも凄い。必聴。

favorite tracks: Hungry Spider, 青春, Future Attraction

 

ふれるときこえ (2005) / トルネード竜巻

music.apple.com

 このレベルの作品が15年も前に出ていたのか!という驚き。音質がとてもいい。昨今のポストボーカロイドに通じる音楽性・世界観(今出ていたらもっと人気が出ていたかも)をプログレ/実験音楽的にパッケージングした、きわめてJ-POP的でありながらどこかねじくれた曲群。ひじょうな名作なのでぜひとも聴いてほしい。個人的なベストトラックは「君の家まで9キロメートル」。変な曲名だが聴くとそうも言ってられなくなる。このバンドが歌う「会いたい」はまったく鼻につかないのが凄い。

favorite tracks: 君の家まで9キロメートル, あなたのこと, パークサイドは夢の中

 

Little Drummer Boy (2006) / Mark Kozelek

music.apple.com

 ‘03年から’06年にかけてのライブ録音。これを夏の終わりや秋の夜長に聴くととても良い。Red House Painters、ソロ名義、Sun Kil Moonそれぞれの曲が1本のクラシックギターで爪弾かれるが、アレンジのない素の状態でここまで聴かせるのは天賦の才。

 

andymori (2009) / andymori

music.apple.com

 非常によろしい。感情がごっちゃごちゃになったままつまずきそうになりながら思考の流れを垂れ流す感じがたまらない。「僕が白人だったら」は日本人の白人コンプレックスに痛烈に切り込んでいて聴いていて気持ちいい。andymoriほどスムーズに個人的問題から政治的問題へ移行する歌詞を書けるバンドはいないのではないか。僕がアニメを作ったらEDはぜひ「すごい速さ」で頼む。

favorite tracks: everything is my guitar, ベンガルトラとウィスキー, すごい速さ

 

ほぞ (2010) / Climb The Mind

www.stiffslack.com

 ジャパニーズオルタナのカルト的名盤。カポの高いアルペジオで始まる「ベレー帽は飛ばされて」から終わりの「つげ」まで、生活のシーンを高解像度で切り取った歌詞が特徴。マスロックからオルタナロックへの過渡期に作られただけあって日本的としかいいえない独特な音をしていると思う(ボーカル山内の演歌的な歌い方もいい)。「死」を主題に据えたアルバムだと思う。表題曲の「ほぞ」がとにかく凄いので、これだけでも聴いてほしい。ただサブスク配信もしておらず中古でプレミア価格がついているアルバムなので、食指は動きづらいが…。

favorite tracks: ベレー帽は飛ばされて, ほぞ, 困ったサンは背中を押されて, つげ

 

via nowhere (2016) / bed

Via Nowhere

Via Nowhere

  • bed
  • ロック

music.apple.com

 ギターアンサンブルが非常に心地よい。轟音の重ね合いによって変幻自在な叙情性が生まれている。ブッチャーズやBuilt to Spillの表現力を受け継ぎながら独自のポップスに昇華されていて凄い。全ヒマなな大学生に聴いてほしい。名盤。

favorite tracks: ヒマな2人, YOU, 誰も知らない

 

Cuidado Madame (2017) / Arto Lindsay

music.apple.com

 アートリンゼイというとギターをガチャガチャやっている人という印象しかなく、彼の音楽的な出自に関してはまったく無知だった。ブラジルで幼少期を過ごしたことからボサノヴァのリズムが多用される。民族的な太鼓とオルタナティブな音像の奇跡的な組み合わせ。AORオルタナロックと現代音楽の自由な交差が楽しい。GRAPEVINEの「太陽と銃声」にそっくりな曲がある。

favorite tracks; Each to each, Ilha Dos Prazeres, Tangles

 

CAMELUS (2018) / peelingwards

CAMELUS

CAMELUS

music.apple.com

 激情系ハードコアでカッコがよろしい。最近こういう音楽を聴いていなかった。熱狂の中の冷めた目線を感じて良い。「like a seven」はチェンソーマンの主題歌にしてほしい。

favorite tracks: like a seven, hyousou, closer

 

For (2018) / uri gagarn

music.apple.com

 group_inouでMCをつとめていたcp名義の威文橋が中心になった変なバンドで、というのも元々ツインギター+ドラムの3ピース体制だったのが、その後ギターもドラムも早々に抜けて新しくベースとドラムが加わったのにもかかわらず、音楽性はそんなに変化していない。浮遊感のある威文橋のボーカルと奇妙な曲構成が特徴的で、なによりどんな感情で聴けばいいのか難しい。夢と現実の狭間、寝起きの頭で捉える世界…のような音楽。レギュラーチューニングの開放弦をここまでエモく響かせられるのは凄い。「IJDB」がとにかくいい。言葉少なながら喚起力はじゅうぶんにある。わりと真面目に「誰もやっていない音楽」だと思う。

favorite tracks: Few, IJDB, Owl

 

ai qing (2018) / KID FRESINO

ai qing

ai qing

  • KID FRESINO
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2037

music.apple.com

 何を聴けばいいかわからないときはいつもこれを聴いている。声が良すぎるしフロウも気持ちいいし何よりラップがうますぎる。客演が豪華(NENE、Ryugo Ishida、鎮座DOPENESS、5lack、Campanella、ISSUGI、C.O.S.A.、JJJ)ながら、これはフレシノのアルバムだとしかいいようがない芯の太さがある。彼のインタビュー記事を読むと多くのアーティスト・楽曲にリファレンスが示されており、フレシノ本人が同時代のポップスに対しラッパー/トラックメイカーとして鋭く反応し、高い水準でそれに応えた名盤。

favorite tracks: Coincidence, Winston, Way too nice, Retarded

 

A Brief Inquiry Into Online Relationships (2018) / The 1975

music.apple.com

 正直今年の新譜は良いとは思わなかった。長すぎるというのもあるがどうしても一昨年に出たこっちと比べてしまう。紛れもない傑作だと思う。The 1975はジャンル横断的なロックをやっているがその軽薄さから敬遠してしまう人も多い。しかしその軽薄さがインターネットの人間関係の稀薄さと共鳴したら?名盤に決まっている。

favorite tracks: TOOTIMETOOTIMETOOTIME, Sincerity Is Scary, It’s Not Living (If It’s Not With You)

 

Back To The 80's (2019) / ザ・リーサルウェポンズ

Back To The 80's

Back To The 80's

  • ザ・リーサルウェポンズ
  • ロック
  • ¥2444

music.apple.com

 コミックバンドながらメロディのセンスが卓越している。どこか懐かしいシンセとユーモアに溢れた歌詞が持ち味。たまに死ぬほどエモい。「シェイキン月給日」がたまらなくいい。アウトロのシンセが泣かせにきてる。もっと有名になって良いと思う。

favorite tracks: 80年代アクションスター, シェイキン月給日, ホッピーでハッピー

 

i,i (2019) / Bon Iver

music.apple.com

 ボンイヴェールはその難解さから高校の時『22, A Million』を聴いて以来避けていたが、こっちはポップで聴きやすく良かった。コーラス主導の美しく力強いアンサンブルが特徴的。なんで去年聴かなかったんだろう?

favorite tracks: Hey Ma, U (Man Like), RABi

 

GODBREATH BUDDHACESS (2019) / 舐達麻

GODBREATH BUDDHACESS

GODBREATH BUDDHACESS

  • 舐達麻
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2444

music.apple.com

 舐達麻は本当にいい……Green Assassin Dollarのローファイなトラックももちろん素晴らしいが、なんといってもBADSAIKUSH、G-Plants、Delta9kidのリリックがとにかく冴え渡っている。「GOOD DAY」のフックなんか特にすごい。諸行無常のニューバージョンという感じがする。特に衝撃だったのはバダサイの「声が小さくて聞こえねえ意見/傾ける耳考える意味続ける明日明後日」というリリック。声が小さいことを肯定するギャングスタラップをはじめて聴いた。他にも言いたいことは色々あるが(フィッシャー『資本主義リアリズム』との接点など)現代のヒップホップシーンを大きく上書きする一枚。

favorite tracks: GOOD DAY, 100MILLIONS, FLOATIN'

最近聴いている音楽 (8月〜9月)

 年の瀬に「今年よく聴いたアルバム」にかんする記事を書く心づもりだったのだが、いろいろと書きたいことがあったので10枚だけアルバムを挙げることにする。りちぎに聴き終えたアルバムをぜんぶメモ帳にまとめているのだが今年に入って200枚も聴いていない。まあ数だけ多ければいいというわけでもなく。おもにこの休み期間中に聴いたアルバムになる。

 

1. African Piano / Dollar Brand

African Piano (Live At Jazzhus Montmartre, Copenhagen / 1969)

African Piano (Live At Jazzhus Montmartre, Copenhagen / 1969)

  • ダラー・ブランド
  • ジャズ
  • ¥1935

music.apple.com

 ダラー・ブランド(現アブドゥラー・イブラヒム)のライブアルバム。『音楽の聴き方』で岡田暁生氏が紹介していたのをきっかけに聴いたのだが、たったピアノひとつでここまで喚起させるものかという驚き。聴いているだけでアフリカのうだるような熱気とあの赤土の色が浮かんでくる。「The Moon」という曲は8分間ずーっと暴れ回るような弾き方で、夜というものの感覚を揺さぶられる。アフリカの夜が感じられる。すばらしい一枚。

 

2. Congtronics / Konono Nº1

Congotronics

Congotronics

  • Konono N°1
  • ワールド
  • ¥1681

music.apple.com

 アルバム名の通りKonono Nº1はコンゴで結成された、実は数十年前から活動を続けているかなり長寿のグループである。さぞ伝統あるエスニック音楽のグループかと思うが、本作で聴けるのはジャケットに写っているカリンバ(いわゆる指ピアノ)を電化して音作りに応用したエレクトロニカである(!)。他の楽器もジャンク品を再利用したりしてほかに見られない音像をしている。全7曲51分とはいえ全曲同じで意識しないと曲間がどこにあるかわからない。とにかく音が楽しい!アフリカ音楽特有のポリリズムが延々と続く。理屈うんぬんでは語れない良さがある。「Paradiso」という曲が特に良い。

 

3. Dini Safarrar / Mor Thiam

Dini Safarrar

Dini Safarrar

  • Mor Thiam
  • ジャズ
  • ¥1275

music.apple.com

 モル・チャムはセネガル出身の音楽家で本作は1973年にリリースされた。apple musicではジャズと分類されているがほぼ民族音楽である。現地の言葉を織り交ぜたきわめて祝祭的雰囲気の強い一枚。ドラマーだけあって「Kanfera」を筆頭にパーカッションへの意識が高い。それぞれの曲がキャッチーで聴きやすくアルバムも31分ほどなのでおすすめ(アフリカ音楽のアルバムは基本的に1時間前後が多い)。アフリカ音楽を聴き始めてから「音楽は楽しけりゃよくない??」みたいな考えが強くなった気がする(それが良いか悪いかは置いておいて)。

 

4. Deceit / This Heat

music.apple.com

 やっとディス・ヒートの2ndを聴いたのだが、まあこれがおそろしくカッコよくて。1stに比べるとだいぶポップになったんでは?という印象。土俗的で無機質で徹底して感情を排している。「Paper Hats」最高の音楽。とても良い。意味のない叫び。突発的な怒り。これが40年近く前に出たというのは奇跡としかいいようがない。「Makeshift Swahili」という曲なんかは身につまされるものがある。こっちを呪ってくるようなコーラスが印象深い。呪術的。その意味では狂人の神がかり的なものを感じる。

 

5. via nowhere / bed

Via Nowhere

Via Nowhere

  • bed
  • ロック

music.apple.com

 bedはつい最近聴き始めて、ここらへんのバンドもdigろうかなという感じ。なんだかんだいってギターポップが好きなんですよね。ギターの音でしか表現できないものがある。bloodthirsty butchers以降のロックを正統にやっているという感覚。「YOU」ももちろんいいんだけど、次の「誰も知らない」も良い。こういうのを「言葉以上にギターがものを語る音楽」と勝手に呼んでいる。実力派。

 

6. New Games / goat

music.apple.com

 goatは関西のバンドで佐々木敦主宰のHEADZから音源をリリースしている。とにかくものすごい緊張感。リズムキープの鬼。人力でこれをやるのは狂気に近い。一歩でも足並みが遅れたら瓦解するビート。ライブ映像もyoutubeに上がっているが見ていてめちゃくちゃハラハラする。目の前で演奏するのを見たらトランス状態に入れるかもしれない。一度は生で見てみたい。

 

7. Icarus / The Forms

Icarus

Icarus

  • The Forms
  • ロック
  • ¥1528

music.apple.com

 アルビニ録音。ではあるが、アルビニ感はそんなにない。10曲でたったの19分しかないのだが、こういう音楽を聴いたのは初めてな気がする。意識しなければ曲の継ぎ目が判然としない。強いて例えるならYesの『危機』の10分を超えるトラックを分割したような…。20分を超えないが密度は高い。アメリカのインディーズバンドってほかにもまだまだこのレベルのエモロックをやっているのがゴロゴロいるんだろうなあと思う。

 

8. なぎ / 環ROY

なぎ

なぎ

  • 環ROY
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1833

music.apple.com

 夏休みに入って何枚か日本語ラップのアルバムを聴いてみて、C.O.S.A.とKID FRESINOの『Somewhere』もよかったのだが、これも良くて。短歌の朗読がインタールードとして挟まる。「On&On」が格好良い。トラックがどれもほかではあまり聴けない感じ(ミニマル/コンテンポラリー/電子的)なのも面白い。詞がスッキリ身体に入ってくる感覚がある。もっと評価されてもいいんじゃないかと感じる一枚。

 

9. Henzai / Hisato Higuchi

Henzai

Henzai

music.apple.com

 寝る前によく聴く。アシッドフォークというのかアンビエントというのか(apple musicでは「Contemporary Singer/Songwriter」とジャンル分けされている)歌詞もなく杳としているギター1本の弾き語り。ジャケットがひじょうに良い。ダウナーでかなり落ち着く。Nick DrakeGrouperが好きな人にオススメできる一枚。

 

10. Wool in the Pool / Wool & The Pants

Wool in the Pool

Wool in the Pool

music.apple.com

 録音が良すぎる。「私」の発音にクセがある。ゆるいグルーヴが耳に心地いい。JAGATARAの「でも・デモ・DEMO」の歌詞をサンプリングしたそのままずばり「Edo Akemi」という曲が実は原曲よりも好きだったりする。ありそうでなかなかない3ピース音楽。ものすごく面白いバンドだと思うしどんなライブをするのか一度生で見てみたい。

my essential 50 albums (26〜50)

26. Nas - Illmatic (1994)

Illmatic

Illmatic

  • Nas
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1630

music.apple.com

 Nasの1st。聴けば聴くほど味が出てくる一枚。これも超好きだな。よく聴いた。「Life's a Bitch」が自分の金科玉条だった。「Life's a bitch and then you die / that's why we get high cause you never know when you gonna go」明日死ぬかもしれない状況下で歌われるきわめてアクチュアルなメッセージは、僕にも同様強い意味をもっていた。「The World is Yours」今さら言葉を重ねる必要もないが、リリックが本当に天才。なぜここまで惹きつけられるのかわからないが、たぶんフロウが強いからかもしれない。「born alone die alone no crew to keep my crown or throne」の一節に勇気づけられる。ベースの音も良い。「Represent」も好き。なにかと戦っていた。それが何だったのか今でもわからない。

 

27. Neil Young - After the Gold Rush (1970)

music.apple.com

 Neil Youngの3rd。これもほんとに良いアルバムで。高音でゆらゆらするニールヤングの声がとにかく好き。受験期によく聴いた。「After the Gold Rush」わけわかんない歌詞だけどいい。「Only Love Can Break Your Heart」人生の名曲というか。このメロディでこんなこと言われたら頷くしかないよなあ、という。「Birds」は葬式で流してほしい。温かみのある歴史的名盤。カントリーはいまいちピンとこないが、これはグッとくる。

 

28. Nick Drake - Pink Moon (1972)

Pink Moon <a href=*1" title="Pink Moon *2" class="itunes-embed-image" />

Pink Moon *3

music.apple.com

 Nick Drakeの3rd。僕の人生のサウンドトラック。すべての根幹にこれがあるといっていい。これと出会ってなかったら今頃大変なことになっていたかもしれない。感情の横溢で客観的な分析ができない。表題曲以外全編ギターの弾き語りで、編曲もされてないデモテープみたいな一枚なのだが、まあとにかく素晴らしくて。容易に時代を超えてくる。ギター1本で弾いているとはとても思えないし、72年にこれが存在したのも信じられない。奇跡みたいな一枚。どれだけ言葉を尽くしても足りない気もするし、言葉で表現すべきではないのかもしれない。アシッドフォークの文脈で語られることが多いが、ほかのアシッドフォークのSSWにはまったくアンテナに引っかからない。「ニックドレイクみたいな音楽」はこの世に存在しないし、絶対に真似できない。これまで現れたこともなければ金輪際現れることもないだろうアルバム。100年後も余裕で聴かれると思います。暗い/明るいを超えた彼岸にある。

 

29. NUMBER GIRL - SAPPUKEI (2000)

music.apple.com

 NUMBER GIRLの3rd。ザゼンからナンバーガールに入って、金切り声を上げるギター、バキバキのドラム、ゴリゴリのベース、音割れする録音、博多弁で怒鳴り散らす向井秀徳にビビった思い出。こんな音楽あってもいいのか??と感じた。ナンバーガールにはとことんハマった。B面を集めライブ音源を集めデモ音源を集めた。どのアルバムも好きだが一応これに。「ABSTRACT TRUTH」の「本質なんてどこにもない」に妙に納得していた。「TATTOOあり」の歌詞がとにかく好きで。「右肩 刺青 明け方 残像」これでハッキリ情景が出てくるのが凄い。向井の詞には恐れ入る。田渕ひさ子のギターも凄まじい。「殺風景」なんだよな。自分もたしかにその風景の中にいるがそれも気に食わない。鬱屈とした気分によく調和していた。

ナンバーガールは現代都市の冷酷無惨な側面を背景にしたものが多く、『SAPPUKEI』ではそれが色濃くあらわれていて、「一昨年の事件を誰も覚えておらんように/俺もまたこの風景のなか消えていくんだろうか」(ZEGEN VS UNDERCOVER)のような、一種ペシミスティックな雰囲気が作品全体に重くかかっている。「殺風景」はそうした都市の倦怠感を如実に示している、と思う。

 

30. Pavement - Crooked Rain, Crooked Rain (1994)

music.apple.com

 Pavementの2nd。Pavementもハマった。B面デモ音源ライブ音源なんでも集めた。これを発端にUSインディーに傾倒していった気がする。TSUTAYAにはベスト盤くらいしか置いてなくて、ブックオフでこれを最初に見つけて何度も聴いた。夏の暑い時期にピッタリだった。歌も演奏もヘロヘロで、お世辞にもうまくないんだけど、その肩透かしが妙に好きで。「Elevate Me Later」のコーラスなんて最高。歌詞もいいんだよなあ。ずーっとわけわかんないけど、突然グッとくることを言う。「And I wouldn't want to shake their hand / 'Cause they're in such a high protein land」本当に良いこと言うよなあ。スティーブン・マルクマスは天才。サウンドプロダクト的には全然ローファイじゃないけど、ローファイ的な空気を出すのがうまい。「Gold Soundz」もまぁ〜〜〜〜好き。真夏の太陽を感じさせるギターに、これでもかとエモい歌詞が乗っかる。「I keep your address to myself / 'Cause we need secrets」これと2番の歌詞は全部凄い。素晴らしすぎる。神がかっている。なんでこんなの書けるんだ。「Range Life」も残暑を感じる。「Fillmore Jive」のギターワークは圧巻。『Brighten the Corners』と『Terror Twilight』も好きで言葉がとても足りないがこの辺で。

 

31. Pink Floyd - The Dark Side of the Moon (1973)

music.apple.com

 Pink Floydの8th。これもだいぶ影響を受けた。中3の頃洋楽を聴き始めて「名盤」と聞くと決まってこれにぶち当たり、「Time」を聴いて「こんな歌詞があってもいいのか!!ていうか40年前ってどういうこと??」という衝撃を受けた。イントロが2分50秒あっても誰からも怒られないんだなあ…とも。いわゆる音楽の自由性とアルバム通して聴くことの意味を教わった。曲の前と後が繋がってて、通しで一曲になってる!すげえ!!と。まぁ筆舌に尽くしがたい。「The Great Gig in the Sky」なんて言葉で語るべきではないとも思う。「Money」の長大なギターソロも驚いた(一時期全部口笛で吹けてた)。「Eclipse」の最後40秒の沈黙に、音楽の構成の妙を感じ取った。世界が広いことを知らしてくれた一枚。

 

32. Pixies - Doolittle (1989)

music.apple.com

 Pixiesの2nd。「Debaser」にやられる。こんな歌い方アリなんだな〜〜と思った。メンバーのビジュアルにもびっくりした(高1当時ロックバンドというのは美男美女がやるものだと考えていたため)。センスのいいポップソングが並ぶ。ニルヴァーナはいわゆるquiet & loudをここから受け継いで応用させたが、「Tame」にその原型がある。「Hey」もとても良い。ポッカリ心に穴が空いた感覚をこうも表現できるとは。ギターの使い方が上手すぎる。Modest Mouseもそうだけど、わめくボーカルが好きなんだろうな。これが90年代に出てたらと思うとやりきれない。

 

33. R.E.M. - Automatic for the People (1992)

Automatic for the People

Automatic for the People

music.apple.com

 R.E.M.の8th。高1のときはまったく響かなかったが、最近になってとんでもない大傑作だと気づく。前作『Out of Time』が陽の名盤とすれば、こっちは陰の名盤か。美メロの洪水。曲順もあざやかで飽き足りない。もはやロックバンドの域を超えているが、その音の使い方は隙がない。「The Sidewinder Sleeps Tonite」なんか下手すればストリングスが陳腐になるところをギリギリのバランス感覚で免れている。力の抜きどころをわきまえている感じ。「Man on the Moon」→「Nightswimming」→「Find the River」の並び。この世のものとは思えない。これを聴きながら死んだカートコバーンの気持ちがなんとなくわかる。

 

34. Radiohead - The Bends (1995)

music.apple.com

 Radioheadの2nd。洋楽アーティストで一番好きなバンド。Radioheadに門戸を開いてもらったといっても過言ではない。これと『OK Computer』と『Kid A』と『In Rainbows』は同率一位。人間の感情の全部がある。全部シングルカットされてもおかしくない曲だらけで、この時期のB面も良曲ぞろい。アコギ+ギター+ギターの組み合わせで作れる音楽としては最高傑作の部類だと思う。まあ並びが完璧。「High and Dry」の歌詞には共感しかなかった。音楽に代弁してもらうことが多かった。「(Nice Dream)」の川の流れみたいなアコギが、かと思えば次の「Just」では暴力性をむき出しにする。「Bullet Proof...I Wish I Was」も良くて、一時期こればかり聴いていた。Radioheadの凄い点は、技術で圧倒したり、尺を引き伸ばしたり、新奇なコードやチューニングを使わずに、要は真似しようと思えば誰でも真似できるシンプルさで、既存のバンド音楽を打ち破ったところにある、と感じる。精神の支えになってくれた素晴らしい一枚。

 

35. Rage Againt the Machine - Rage Against the Machine (1992)

music.apple.com

 Rage Against the Machineの1st。28年前。とても信じられない。レイジを聴いたときの脅威は計り知れない。ジャケットもそうだが、サウンド、メッセージ、精神性、どれをとってもまったく古びていないところが恐ろしい。高水準の緊張感と体制への敵愾心。音楽と政治が化学反応を起こすと時に大傑作が生まれる。メンバー全員の存在感が均等なのも凄い。「Bombtrack」の緊張感溢れるイントロ。「Killing in the Name」のある種のカタルシス。個人的に思い入れ深いのは「Settle for Nothing」と「Know Your Enemy」。どちらもザックデラロッチャの鬼気迫るボーカルに揺さぶられる。「I try to grip my family but I slipped」「No-one's here to catch me when I fall」このメッセージをアメリカという国が必要としていた時代。今でも変わらない。レイジのメッセージは今でも色あせない。

※妥協、画一化、同化、服従、無知、偽善、残虐さ、エリート、これらすべてがアメリカンドリーム、敵だと訴えかける「Know Your Enemy」。僕はこの曲の終わりまでザック・デ・ラ・ロッチャが叫びつづける「All of which are american dreams」という言葉が忘れられない。19世紀から20世紀へかけてアメリカへなだれ込んできた移民の手に入れようとした夢、弱者をたぶらかすのに都合のいい夢は、すべて虚偽なものでしかないと、怒りをもって告げられるのは、耳が痛いようにも思えるし、最高のカタルシスに近いとも思える。

 

36. Red House Painters - Old Ramon (2001)

Old Ramon

Old Ramon

  • レッド・ハウス・ペインターズ
  • ロック
  • ¥1528

music.apple.com

 Red House Paintersの6th。大傑作。高2の夏休みに模試かなんかの帰りでディスクユニオンに寄って、たまたま置いてあったこれを手にした。10曲72分という長大さながら何度でも聴ける。荒涼とした大地をトラックでひた走るイメージ。BPMがとにかく低く、AメロBメロCメロサビという展開を何度も繰り返すが、これが本当に良くて。自然に眠ってしまう。詞も素晴らしい。「Void」これを聴くと存在しない遠い昔を思い出せる。「Between Days」めちゃくちゃ好きなんだよなあ。日々の間に埋もれたものを掘り起こす感じが…。これ以降マークコズレックにハマって、色々とディスコグラフィーを漁り出した。ライブ音源はなんぼでも聴ける。くるりの岸田も指摘していたが、バンドでもソロプロジェクトでもソロでも、マークコズレックの音楽性は大して変わらない。青写真のままパッケージングしてるというか。だからギター1本のライブ音源でも違和感がないのかもしれない。バンドバージョン/アコギバージョンという二分法が存在せず、渾然一体としている感じ。

 

37. rei harakami - lust (2005)

[lust]

[lust]

music.apple.com

 rei harakamiの4th。素晴らしい一枚。細野晴臣のカバー「owari no kisetsu」が本当にいい。去年の年末工場バイトで精神的に死にそうになったとき、これを聴いて安定を保っていた。音の使い方がひじょうにうまい。なによりこの音像にこのジャケット、「lust」という名前をあてがったことが素晴らしい。エレクトロニカに関しては初心者で大して聴いてないのだが、それでもこのアルバムは傑作だといえる。時間を超えた無窮のかなたにあるんじゃないかというくらい美しい…これ以上言葉が出てこない。

 

38. Slint - Spiderland (1991)

music.apple.com

 Slintの2nd。今まで聴いてきた中で一番影響を受けた一枚。僕が音楽の好みを決定づける時の指標になっているアルバム。アートワーク、反復、静と動、緩急、緊張感、サウンド、すべてが奇跡じみていて、こんなのを作られてしまったら、あとでどんなものを作ろうと思っても全部これの模倣になるしかない。情報があまりに少ない。CDにはブックレットもなにもなくジャケットの紙が挟まれてあるだけで、裏にも曲目が書いてあるのみ。「Breadcrumb Trail」ギターのハーモニクスで始まる。ボーカルがボソボソしゃべって、しばらく反復が続いて、そして轟音。この時点でだいぶやられる。音楽的クールさの極みというか。ギターが終始クリーントーンなのも覚悟を感じる。この緊張感は「Washer」で頂点に達する。この世で一番格好いい曲といっていい。タメと解放の配分が絶妙で、こんなのを作ったらあとの人生遊んで暮らせるくらいの金を貰っても十分なくらい。とにかく化け物じみている。どの音楽的文脈からも逸脱している。なにかが取り憑いているとしか言いようがない。どんな精神状態でこれを作ったのか。ギターのディストーションはこのバンドのために存在する。

 

39. Sun Kil Moon - Tiny Cities (2005)

music.apple.com

 Sun Kil Moonの2nd。『Ghosts of the Great Highway』『Admiral Fell Promises』『Benji』と悩んでこれに。マークコズレックによるModest Mouseのカバーアルバム。同郷なので通じるところがあるのかもしれない。カバーとは言うが歌詞以外全部オリジナルといっていい。自分の曲はことさら引き延ばすくせに他人のカバーとなると2、3分にカットするあたりがセコいが、まあとにかく素晴らしい一枚。評価は低いが(Pitchforkで3点!)そんなのどうでもいいくらい。正直「Space Travel is Boring」はこっちのほうが断然好み。ライブでもよく演奏する「Four Fingered Fisherman」も大変良い。「Tiny Cities Made of Ashes」「Ocean Breathes Salty」もとても好き。インドネシア旅行でマレーシアでのトランジットの際、くたくたに疲れながらこれを聴いて精神の安定を保っていた。名盤、とまでいかないが、個人的に好きな一枚。

 

40. Syrup16g - HELL-SEE (2003)

HELL-SEE

HELL-SEE

music.apple.com

 Syrup16gの4th。シロップにもずいぶん支えてもらった。『COPY』『coup d'Etat』と同率。healthy、地獄を見る。終わらない日常をシーンごとに切り取ったようなアルバム。モコモコした録音と吐いて捨てるような歌詞。五十嵐隆は稀代のメロディーメーカー。余裕のない人間の苦し紛れのジョークは決して笑えないが、それでも抑えきれず笑ってしまうことがある。そのときにこそ一番の絶望を感じる、と思う。「不眠症」がまさにそうで。「Hell-see」が一番好み。戦争との距離感があまりにリアル。底抜けに明るいメロディにうそ寒いほど暗鬱な歌詞が盛り込まれる。思い入れが強くて言葉にしづらい。「I'm 劣性」の歌詞には共感しかない。シロップは行間がうまい。詞と詞、曲と曲、音と音の間をよくふまえているというか。「ex.人間」→「正常」にその印象が強い。一瞬立ち直れそうになってやっぱり元通り、という感覚。覚えがありすぎる。

 

41. This Town Needs Guns - Animals (2008)

Animals

Animals

music.apple.com

 TTNGの1st。ポストロックの名盤。複雑で繊細なギターをバンドサウンドに完璧なまでに落とし込んだ一枚。アルバム名と曲名からコンセプトアルバム的な構成になっているかと思えばそうでもない。まあギターがとにかく美しい。日本でいうichikaに近い。そのギターをバンドサウンドの一つに組み込む技術もさることながら、曲構成も巧みで。12年前だが余裕で聴ける。全編アコースティックのセルフカバーアルバムもあるのだが、こちらも大変良い。「Panda」までの流れがとても好き。感情の奔流という感じ。

 

42. toe - the book about my idle plot on a vague anxiety (2005)

music.apple.com

 toeの1st。これもヒジョ〜〜〜〜〜〜〜に好き。『The Bends』『Pink Moon』『Spiderland』と並んで僕の人生に欠かせない一枚。全編インストなのが信じられない。いつ聴いても何度聴いても飽きない。朝に聴いて気分をリフレッシュすることが多い。どの曲も本当にいいのだが、「i do still wrong」が特に好き。ブレイクに入る絶叫が非常に格好いい。ただのヒーリングミュージック(それもいいが)に堕しない十分な魅力が、Ghosts and Vodka的な音作り、手数の多いドラム、ギターの絡みなどにあらわれている。冗談抜きでドラムが歌っている。静かな音調にエネルギーがたぎっているのが感じられる名盤。

 

43. ZAZEN BOYS - すとーりーず (2012)

すとーりーず

すとーりーず

music.apple.com

 ZAZEN BOYSの5th。はじめて聴いたときは変な曲展開と冗漫にしか聞こえない歌詞に面食らったが、何度も聴くうちにすばらしいアルバムだと気づく。36分というコンパクトさにセンチメンタルな一瞬がたびたび訪れる。「はあとぶれいく」→「破裂音の朝」が特にいい。向井秀徳は詞がうまい。本作からさかのぼる形でアルバムを聴いていったので、1stの「自問自答」にはけっこう驚いた。向井はこの問題意識をどこにやったのかと当時は勝手に失望していたが、別にそれは向井が『すとーりーず』的なアルバムを作ることとなんら矛盾しないし、問題意識を捨てたわけでもない。とにかく良い一枚。しかしこれ以降まだ新譜が出ていない。

 

44. The Zombies - Odessey and Oracle (1968)

music.apple.com

 The Zombiesの2nd。美メロに次ぐ美メロ。人智を超えた美しさ。受験期に元気をもらった。イントロの「Care of Cell 44」がひじょうに良い。60年代にこれを作る奇跡。ピアノを基調とした曲が続く。「A Rose for Emily」「Brief Candles」など文学作品から題材が取られているのもいい。「Hung Up On a Dream」は言葉が出てこない。夢だとわかっていながらもこの夢にすがりつかずにはいられない。「This Will Be Our Year」は言わずもがな。時代を容易に超えてくる凄みがある。文句のつけようがない名盤なのだが、一つだけ、なぜ最後に「Time of the Season」をもってきたのかがわからない。間違いなくゾンビーズを代表する名曲ではあるのだが、流れ的になんか噛み合わない感があるというか。しかしそれを差し置かずとも歴史に名を残す大傑作。

 

45. スピッツ - ハチミツ (1995)

Hachimitsu

Hachimitsu

music.apple.com

 スピッツの6th。中学生の頃死ぬほどハマった。今も好き。「ロビンソン」はショックだった。存在しないノスタルジーを喚起するアルペジオと聴き手に決してイメージを押し付けない歌詞に、当時の流行の音楽に飽き飽きしていた僕はスピッツが理想のバンドだと感じ、ベスト盤をずっと聴いて歌詞考察ばかりしていた(中学生あるある)。アルバムを聴いたのは高校に入ってからだが、同時代の『The Bends』と十分にタメを張れる素晴らしいセンスの一枚。シングルがとにかく強い。「愛のことば」がひたすら良い。というか全曲シングルカットできる域にある。スピッツは90年代でもアルバムの作り方がLP志向で、そこに先見の明を感じるというか。去年発表されたといわれても多分信じられるアルバム。実は日本で一番Radioheadに接近しているのはスピッツなんじゃないかとたまに思う。

 

46. パラダイス・ガラージ - 実験の夜、発見の朝 (1998)

www.amazon.co.jp

 パラダイス・ガラージの6th。日本の音楽でもだいぶ特異な位置にあるという所感。「僕は間違っていた」アコギの弾き語りなのだが終始異様な雰囲気にあり、後半に爆音とノイズで「僕は間違っていた」という言葉が繰り返され、次にロック的な「City Lights 2001」が続く。参加メンバーがかなり豪華で、ソロ作品なのだが打ち込みなんだかバンド音楽なんだか本気なのか冗談なのかわからないような曲が並ぶ。しかし突出したポップセンスはどれにも通底していて、個人的には「深夜放送」が好き。「I love you」も本当にいい。これ以降豊田道倫の音源を集め、ライブにも行った。良いアルバム。

 

47. ペトロールズ - Renaissance (2015)

www.amazon.co.jp

 ペトロールズの1st。活動10年目でのデビューアルバムだけあってほとんどベスト盤である。受験期に何度も聴いた。長岡亮介がギターを始めるきっかけになった。エフェクターをかけないクリーントーンでここまで聴かせられるのかとライブ映像を見てびっくりした。なにより最小限の構成なのがいい。この音数でも音楽は成立するんだなあとBlack Diceを聴いたときと同じことを考えた。「タイト!」に始まり、アルバム本編もとにかく隙がない。捨て曲云々では語れない一枚。「Profile」は7分あるとはとても思えない。上手いギタリストは音の鳴っていない空間にも弦の響きを感じると最近よく思う。ペトロールズはその最たる例といえる。相当な技術がなければこの音にはできない。名盤。

 

48. ポルノグラフィティ - WORLDILLIA (2003)

music.apple.com

 ポルノグラフィティの4th。人生で初めて買ったアルバム。名盤によく上がるのは『ロマンチスト・エゴイスト』だが、思い出の観点からこっち。中学生の頃PSPに何曲か入れてずっと聴いてた。「CLUB UNDERWORLD」を一曲目にもってくるのが凄い。「惑星キミ」で早々にその印象を絶っているのも凄い。「元素L」「Go Steady Go!」「カルマの坂」がほんとうに良い。「渦」みたいなポルノの暗めなシングルがむかしから好きだった。アルバムバージョンのパーカッションも良い。ポルノグラフィティやっぱり好きなんだよなあ。人格形成の面でだいぶ強い。でもやっぱり『ロマンチスト・エゴイスト』も良い。アポロとか、よくアウトロぶつ切りにしようと思ったよなぁ…という。

 

49. 山下達郎 - RIDE ON TIME (1980)

www.amazon.co.jp

 山下達郎の7th。vaporwaveの文脈で聴き始める。「SOMEDAY」が本当に良くて。イントロからの音の積み重ね方が本当に天才的。「Plastic Love」もそうなのだが、山下達郎は音をとにかくたくさん配置するけど、その配置が絶妙なので聴いていてまったくストレスにならない。ピアノ、コーラス、ベースラインどれをとっても完璧。これが40年前なのは軽く脅威。それでまた「RIDE ON TIME」までの流れも素晴らしい。B面に入ると静的な曲が並ぶ。山下達郎のポップセンスには敬服せざるをえない。これと前後してリリースされた『SPACY』と『FOR YOU』もたいへんいい。令和でも充分に通用する。

 

50. 54-71 - enClorox (2002)

www.amazon.co.jp

 54-71の5th。日本で一番ソリッドな音楽をしていたバンド。一時期ハマって音源を集めた。日本のRATMだと勝手に思ってる。「humpty empty mellow blues」がとにかく良い。スタジオ音源でも緊張感が伝わってくる。ミスタッチした瞬間に殺されるんじゃないかというぐらいの緊張感。思い切りアメリカン・ハードコア的な空気で、実際本作もアルビニのスタジオで作られたのだが、事実上最後のアルバムになったアルビニ録音の『I'm not fine, thank you. And you?』はそんなに好きじゃない。ヒップホップとロックを横断するバンドだが、ミクスチャーかと言われると疑問の余地がある。とにかく独特。翌年の『true men of non-doing』はもっと音数が少ない。しかしこの音の少なさが逆に密度=緊張感を高めているというか。音がよくて程よくポップなところもある名盤。54-71のこの意匠を受け継いでいるのは空間現代か。

*1:Remastered

*2:Remastered

*3:Remastered

my essential 50 albums (1〜25)

20歳になったので、この機会に自分の人生で(おもに高校生の頃)よく聴いたり、心の支えになったアルバムを50枚(1アーティスト1アルバム)、エピソードや所感も含め紹介したいと思います。思い入れの強さでランキング形式にしてもよかったんですが、収拾がつかないのでアルファベット順に。高校当時に書いた各アルバムの所感みたいなのも見つかったのでそれも合わせていれときます(※マークが当該文章)。

 

1. American Football - American Football (1999)

American Football

American Football

music.apple.com

 American Footballの1st。高1の冬にamazonで注文していつまで経っても届かないなと思ってたら、イギリスから15周年盤が送られてきてびっくりした思い出。ポストロック関連で行き着いたアルバムだと記憶している。まずなにより音が良い!そしてアルペジオがとにかく美しい。どうやってこんな奇跡的なチューニングを見つけたのか。尺の4分の3以上をリフレインに使う「Honestly?」がまだるっこい残暑と未練がましい感情を重ねるようで素晴らしい。結部30秒のツインギターもほんとに良くて。一度「The Summer Ends」で小説を書こうとしたことがあったが、失敗する未来しか見えなくてやめた。歌を積極的に入れないところもいい。

 

2. androp - anew (2009)

anew

anew

music.apple.com

 andropの1st。高校当時の邦ロックを軒並み下に見ていた最悪の時期があって、これはそんな時期に聴いた一枚。まあすごい。もう11年前の作品とは信じられないクオリティ。「Tonbi」が滅茶苦茶好き。このメロディにこの歌詞。そして歌が上手すぎる。7曲25分のEPではあるが決して聴き飽きない。なにより僕の邦ロックに対する苦手意識を打ち破ってくれた一枚でもある。「カーマスートラ」をこんな文脈で使えるバンドはandrop以外にはない。

 

3. Arctic Monkeys - Whatever People Say I Am, That's What I'm Not (2006)

music.apple.com

 Arctic Monkeysの1st。死ぬほどリピートしていた。友達と遊びに行くときもリピートしていた。この歳でこの歌詞を書けるアレックス・ターナーは化け物。ギターソロのない曲構成、ラップのように早口で唾を飛ばすボーカル、身辺の取るに足らない些事を切り取る鋭利な詞。すべてが新鮮で、「これが今のロックか!!!」と電車でビックリした思い出(というのも初めて聴いたときはリリースから10年も経ってた頃なので新鮮だかなんだかも変な話だが)。「From the Ritz to the Rubble」なんか、クラブから追い出されただけの歌詞なのにどうしてこうもクールなのか。一番好きなのが「When the Sun Goes Down」。たった3分足らずで語られる売春婦とおっさんと「僕」の話。ナンバーガールの「性的少女」と並んで大いに影響を受けた。『トレインスポッティング』の印象と被るところも多い。高校時代とこの一枚は切っても切り離せない。

 

4. ASIAN KUNG-FU GENERATION - ソルファ (2004)

music.apple.com

 アジカンの2nd。『ファンクラブ』も『ワールドワールドワールド』も大好きなのだが、一応これに。高1の頃音楽を聴くとなって何から聴けばいいかわからず、とりあえず中古店で見つけたこのアルバムを聴いて、Weezer的なパワーと繊細さによくわからんながらも圧倒された、という感じ。何度でも聴ける。「Re:Re:」→「24時」→「真夜中と真昼の夢」の流れがとにかく良くて。全部シングルカットされてもおかしくないハイセンスの楽曲が完璧な曲順で並んでるので名盤に決まってるんだよな……。個人的には最後はやっぱり「ループ&ループ」しかない。僕たちはこのアルバムを文字通りループするしかなくなる。

 

5. At The Drive-In - Relationship of Command (2000)

music.apple.com

 At The Drive-Inの3rd。エモ-ハードコアの代表的なバンドというか。まあ恐ろしくかっこいい。「Arcarsenal」は当時ビビった。ただ僕はこのアルバムからは音像にかんすることしか言えない。「Invalid Litter Dept.」「Enfilade」「Rolodex Propaganda」という曲名からしてよくわからないし、歌詞を読んでもやはりよくわからない。どこかで「One Armed Scissor」は共産主義批判の曲だというのを読んだことがあるが、それでも不明確な部分が多いし……という部分を抜きにしても、2020年に通じる格好良さがある。日本盤ボーナストラックの「Catacombs」という曲がめっぽうかっこいい。ハードコアパンクの傑作。

 

6. Bastro - Sing The Troubled Beast (1990)

www.amazon.co.jp

 Bastroの2nd。Bastroは3ピースのバンドで、その後TortoiseThe Sea and Cakeのメンバーとなるジョン・マッケンタイアがいたバンドなのだが、まあ非常に巧緻な音楽をしてて。活動時期的にBitch MagnetやCodeineなんかのポストハードコアバンドの一つとして数えられる。演奏が超上手い。「Kraknow, Illinois」なんかハイハットが人間業じゃない。一番好きなのは「Recidivist」。高校当時の僕はメタルともロックとも異なる第三勢力としてポストハードコアを聴いていた気がする。それでここからマスロック、ポストロックには容易に接続できる。激しさをもちながらなんだか冷めた感じが好きだったのかもしれない。

※本作は徹頭徹尾冷酷さにつきる。ジャケットにみられる雰囲気が音楽に落とし込まれていて、生身の人間らしさはあるが、とにかくこちらからは遠く薄暗いところにあるように感じられるのである。まるで意図のくめない歌詞、一分以上も鳴り続けるノイズが、とてもいい。僕のとっての音楽のかっこよさ、鬱屈とした空気が漂うよいアルバム。

 

7. The Beatles - Revolver (1966)

Revolver

Revolver

music.apple.com

 ビートルズの7th。ビートルズで一番好きなアルバム。サイケ感が程良くて良い感じ。「I'm Only Sleeping」ほんとに好きで(授業中寝てばかりいたから)自分で訳して短編に挟もうとしたくらい。「Good Day Sunshine」も美メロが過ぎるし、「And Your Bird Can Sing」も本当にいい。「Got to Get You Into My Life」や「Penny Lane」みたいなビートルズの底抜けに明るい曲が好きなのだが、もしかしたらその裏に終わりの雰囲気を感じ取っているからかもしれない。最後が「Tomorrow Never Knows」で締められるのもいい。下手したら13曲全部この曲のための前座という気がしてくる。ビートルズの普遍性は衰えない。

 

8. Beck - Mellow Gold (1994)

music.apple.com

 Beckの1st。安っちい感じがたまらない。ベックは『Sea Change』も『Colors』も好きだけど、一番最初に聴いたというので印象が強い。声だけ聴いて「おっさんが歌ってんのかな」と思ってネットで調べてみたらすごい童顔で最初は驚いた。なぜこれが好きなのかいまだにわからないが、当時自分でも負け犬意識みたいなのは感じていたらしい。「Whiskeyclone, Hotel City 1997」が好きで、これをベースに短編を一本書いたことがある(noteに公開してます)。ゴミ溜めから拾い上げてきたような音像が新鮮だった。同年にインディーズレーベルからリリースされた『One Foot in the Grave』も音が汚くていい。ペイヴメントからローファイみたいな触れ込みでベックを聴き出したように思うが、正直それを抜いてもメロディセンスは突出している。

※むしろこのチープさが癖になって何度も聴きたくなる。演奏する本人が楽しそうなのでこっちもうきうきしてくる。カントリーミュージックというかインディーロックというか、ベック本人がたどってきたルーツはまったく知らないけども、次作『Odelay』にみられる闇鍋感がほぼ無加工の状態で聴けるため、ハマると抜け出せなくなる。

 

9. Big Black - Atomizer (1986)

Atomizer (Remastered)

Atomizer (Remastered)

music.apple.com

 Big Blackの1st。これを聴くと目つきが変わる。Big Blackを聴いたときの衝撃は凄まじかった。高2の頃だった。パンク・ハードコアにドハマりして様々な音源を集めていたとき、アルビニのバンドだというんで手を出したが、とても30年以上前のアルバムとは信じられない。アメリカのタブーをえぐり出すExpelicitマークだらけの歌詞、鋼を削り取るようなTravis Beanの音、異様に怖い顔のアルビニ。「Kerosene」はイントロからして衝撃だった。こんなギターの音像をアルビニは30年も前に通過していたのだと。やることなんてなにもない、灯油を頭から被って死ぬだけだと、通学しながら真面目に考えていた。必聴盤。

アルビニの書く歌詞はアメリカの抱える問題、人種差別、銃社会児童虐待汚職、異常性愛、精神疾患、感染病、などに基づいており、あまり耳障りの良いものではない。一曲目の「Jordan, Minnesota」は、実際にミネソタ州で起きた児童虐待に取材しており、「Kerosene」は娯楽のない田舎で焼身自殺を遂げようとする若者、「Fists of Love」はそのままフィストファックについて歌っている。社会への怒り、憎しみ、悲しみが、鉄を削るような音をしたギターに表現されているようにも思える。あまりにも無機的なドラムマシンが、『Atomizer』に通底したある種の虚無感を想起させてならない。いま聴いても、充分に熱量を感じられる作品である。

 

10. Bôa - The Race of a Thousand Camels (1998)

www.youtube.com

 Bôaの1st。lainのOPテーマで有名なバンド。「Duvet」はアニソンでも一番といっていいほど好きな曲で、90年代末期の退廃的な雰囲気と、鬱屈しながら安心できるダウナーな曲調が中3のときの自分にすごくマッチしていた。このアルバムの曲も佳曲だらけで、リンクを貼った「Welcome」がひじょうに素晴らしい。とても落ち着ける。2005年に出た『Get There』も好きで、「Passport」という曲が凄いのでとにかく聴いてくださいとしか言えないが、解散してしてしまったのが惜しまれるバンド。

 

11. Built to Spill - Keep It Like a Secret (1999)

music.apple.com

 Built to Spillの4th。USインディーでも特に人気が高い。メロディーセンスが良すぎる。「The Plan」の完璧な出だし。「Center of the Universe」のユニークさ。そして「Carry the Zero」。「Carry the Zero」とても好きで、これと bloodthirsty buthcersの「7月」は自分の中で同じ印象をもつ。最後の最後で一番盛り上がる展開が来るので感情に危ない。なにかが終わったあとの音楽なのだが、もしかしたらまだ始まってすらいないのかもしれない。Built to Spillはギターがとにかく良くて、その意味で正真正銘のギターポップをしている。「Time Trap」の2分近いイントロなんてすべてが素晴らしい。空間の使い方に長けたバランスのいい一枚。

 

12. cero - Obscure Ride (2015)

Obscure Ride

Obscure Ride

music.apple.com

 ceroの3rd。まぁ〜〜〜〜感情に来る。D'Angeloモロオマージュの「C.E.R.O」に続く「Yellow Magus」がめちゃくちゃ良い。高城昌平の作詞の才能が恐ろしすぎる。「Summer Soul」もとても好き。ただオシャレな音楽というだけじゃなくてそこに一捻り加えられてるのがいいというか。ケルアックの『路上』的な移動のための移動という感じの歌詞や、そうかといって「Narcolepsy Driver」みたいに居場所を剥奪されてそこにとどまらざるを得ない状況下の歌詞もあり、楽観的ぽくて、実はぜんぜん楽観的な雰囲気にない、というところが好きなのかもしれない。

 

13. Coldplay - Parachutes (2000)

Parachutes

Parachutes

music.apple.com

 Coldplayの1st。めちゃくちゃ聴いた。コールドプレイで一番好き。初期のダウナーで、小動物が食われるのを恐れて土の中に逃げ込む雰囲気が好きだった。「Spies」がそれに一番近いか。いたるところにスパイが潜んでいるんだという被害妄想的な歌詞。共依存の2人が身を寄せ合う感覚。「We Never Change」もいい。コールドプレイは変化しないことを肯定してくれる。通学時の電車の中でこれを聴きながら寝るのが日課だった。正直今のコールドプレイはキラキラしまくってて好きな感じではないです……。

 

14. The Dillinger Escape Plan - Calculating Infinity (1999)

music.apple.com

 DEPの1st。これも衝撃だった。脈絡のないギターフレーズを次々に使い捨てたり、分裂病みたいにいきなり静かになったり、マスロック的な面があったり……フロントマンがメタラーZAZEN BOYSというか。次作の『Miss Machine』からボーカルがグレッグ・プチアートに変わって、そっちのほうが技術的な面でもアップしてるんですけど、こっちのほうがなんとなく好み。高校当時の自分は静と動を繰り返して緊張感を高めるバンドをすごく評価してて、これもその一つだった気がする。なによりシャウトのある音楽は格好いい。自分の代わりに叫んでくれるボーカルを必要としていたのかもしれない。この激しさに対する期待はどんどんエスカレートして最後にはグラインドコアにまで行き着くのだが、それはまた別の話……。

 

15. The Dismemberment Plan - Emergency & I (1999)

Emergency & I

Emergency & I

music.apple.com

 The Dismemberment Planの3rd。これもまぁ〜〜〜〜〜好き。音楽というのは基本的に聴く側のテンションを選ぶ傾向があって、それが昂ぶっているときはハードコア、スクリーモだったり、逆に落ち着いているときはダウナー寄りだったりするのだが、このアルバムの凄い点は決してそんなテンションを選ばないところにある。どんなときでもニュートラルにフラットな状態で聴ける。その意味で人間の感情が全部ここにあるといってもいい。「Spider in the Snow」好み。全部変拍子の曲だが違和感がないので凄まじい。90年代末期にこのセンス持ってるの異常すぎるな。飽きずに何度でも聴ける名盤。

 

16. Don Caballero - Don Caballero 2 (1995)

music.apple.com

 Don Caballeroの2nd。アイコンにもしている一枚(ジャケットが好きなので)。ギターがバトルスに似てるな〜〜と思ったら実はギタリストが解散後バトルスに加入してたりする。デーモン・チェのドラムが良過ぎる。曲名もすばらしい。「Please Tokio, Please This is Tokio」なんかエモいリフが挟まれるし。どの感情を生起させるべきか迷うという点でドンキャブの音楽は実験的なのかもしれない。曲の4分以上をノイズで埋めたり、脈絡のない展開で繋ぐのは、よく理解できないながらもクールさを感じた。

 

17. downy - 第三作品集 (2004)

music.apple.com

 downyの3rd。変拍子・分裂症的・反復。好きな要素だらけなので聴かない理由がない。全体にダウナーな空気が漂う。Radioheadっぽいと言われるが、正直Radiohead臭さはどこにも感じられない。ポストロック+ハードコア的。鐘のようなギターの音と呪詛のような日本語ボーカルがなんらかの予兆を感じさせる。ドラムが3点(スネア・キック・ハイハット)だけで成り立っているのも良い。10年以上も前にこんな音楽が日本にあったという時点で邦ロックはまだまだ安泰。

 

18. eastern youth - 感受性応答セヨ (2001)

music.apple.com

 eastern youthの8th。日本で一番涙腺に危ないバンドのひとつ。「エモい」の全てがある。3ピースとは思えん音の厚み。一分の隙もない楽曲構成。アジカンが影響を受けるのも頷ける。高3の時期か。受験勉強でクタクタになっていた心にだいぶ効いた。朝の電車の中「踵鳴る」を聴きながら泣いた覚えがある。今でもライブ映像を見たら普通に泣いてしまう。「OMOIDE IN MY HEAD」と並んで無条件に泣いてしまう曲。歌詞が国宝レベル。日本語詞の一つの完成形。「夜明けの歌」もほんとに沁みる。「涙よ止まれよ」とは言うが止まるわけがない。このアルバムに救われた人は多いかもしれない。僕も救われた。

 

19. Elliott Smith - XO (1998)

music.apple.com

 Elliott Smithの4th。高1で初めて聴いたときはピンと来なかったが、大学入学後メチャクチャ聴いた。繊細さに心が震える。ソングライティングのセンスが良過ぎる。「Baby Britain」の歌詞がとても好き。「the dead soldiers lined up on the table」のくだり、天才……試験官のバイトをしたとき何時間も立ちっぱなしで喋ってはいけないという状況に陥り、昼休みの30分マラソン選手の酸素補給のように息も絶え絶えこのアルバムをずっと聴いていた。だいぶ精神の支えになった。「Pitseleh」のピアノも素晴らしい……。

 

20. FISHMANS - 空中キャンプ (1996)

Kuuchuu Camp

Kuuchuu Camp

music.apple.com

 FISHMANSの5th。なんぼでも語れるアルバムなんですが手短に。ジャパニーズレゲエの完成形の一つ。今でいうvaporwave的要素もどこか感じられる。形容がしづらい。満たされてないんだけど満たされてるというか、満たされてるのに満たされてないというか。「幸せ者」がとにかく好きで。「みんなが夢中になって暮らしていれば別になんでもいいのさ」って、本当にその通りだよなあと思う。外部を志向しない考え方はここから来てるのかも。天才の仕事としか言いようがない。96年か…いやほんとありえんよなあ。これが『OK Computer』の前年て信じられなくないですか?

 

21. GRAPEVINE - Sing (2008)

Sing

Sing

music.apple.com

 GRAPEVINEの9th。日本のバンドでも特に好き。これと『Circulator』『another sky』『愚かな者の語ること』ぐらいまで絞ったが、泣く泣くこれに。GRAPEVINEは何出しても一定水準超えてくるので凄い。温かみのある「Sing」で始まり、ソリッドな「CORE」に続き、そして「Glare」。GRAPEVINEは光に関係した曲が多くて、これも「光」関連なのだが、まあ凄くて……たかが満ち足りた世界なあ。天才か??この後全部サビみたいな「ジュブナイル」が来て、で「Two」、そして「また始まるために」ベケットのオマージュなんだろうけど、これも好きなんですよ……「おそれ」と並んで、構成の妙が際立つ名曲。上手いこと言った!ってよりかはシンプルな一節に惹かれるタイプなので、「それは幻想かい?」がだいぶ効く。コミカルな「女たち」(ソレルス?)も良し、「スラップスティック」の安定性も良し、締めが「Wants」なのも良い…リスナーの感情の軌跡を追うように曲順が配慮されてるのが丁寧だと思う。超名盤。

 

22. Grouper - Ruins (2014)

music.apple.com

 Grouperの10th。Grouper、好き……ドローン/アンビエントの音楽をあまり聴かないけど、これはとても好み。ジャケットが良い。全編ピアノだけで、たまに環境音が入るのも良くて。寝る前によく聴く。どこまでも際限なく落ちていく感覚。カエルの鳴き声が心地いい。ピアノだけなのでリズムキープや角ばった骨子がなく、終わろうと思えばいつでも終われる、その鳴る音/鳴らない音を峻別しないという点でアンビエント的。サティの室内音楽とはまた違った、より肌感覚に近い一枚。

 

23. Kendrick Lamar - DAMN. (2017)

DAMN.

DAMN.

  • ケンドリック・ラマー
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1528

music.apple.com

 Kendrick Lamarの4th。実はケンドリックのアルバムで一番好き。前作とは打って変わってサウンドもリリックも内省的。なんかよくわかんないけど好きなんだよなあ。「ELEMENT.」がとにかく好きで。PVも合わせて印象的な一曲。「Most of y'all throw rocks and try to hide your hand」うまい表現だよなあ。SNS時代の茫漠とした不安を捉えてるというか。自分のアイデンティティで悩んでた時期だった。「ain't nobody prayin' for me」は割と切実な問題だった。今でも解決していない。

※まず全体的に音が少ない。トラックが引っ張るというより、ケンドリックのラップで曲を引っ張るイメージがある。実際「DNA.」の後半はアドリブらしく、バスドラと「give me some ganja」のサンプリングしか鳴っていないから驚きである。「sex, money, murder are DNA.」本当にそうかはわからない。しかし血や宗教や人種が人間に与える影響は、僕達が感じているよりももっと大きいものなのかもしれない。

 

24. LOSTAGE - DRAMA (2007)

throatrecords.ocnk.net

 LOSTAGEの2nd。LOSTAGEのアルバムどれも良くて、正直過小評価されてるなあとよく思う。小文字表記時代のlostageは三人体制の今とまるで雰囲気が違う。死の匂いを感じるというか……。1曲目の「RED」が本当に格好良い。バチバチにヒリつくこの感じ。殺意を感じる。次が「こどもたち」なのが凄い。そして「ガラスに映る」なのも凄い。なんだろうなあ、とにかく乾いてて擦過傷的な感覚。lostage聴いてると熱的な熱さよりも傷の痛みの熱さを想起する。「ドラマ・ロゴス」本当に好きで。すべてが完璧な曲。空間の使い方が上手すぎる。「走り出した〜」でベース入ってくるの凄すぎ。100秒近いアウトロも凄い。なにかを失ったあとなんだけど、そのディテールが生々しすぎる感じ。邦ロックというか邦楽全般に共通するウェットな感じが全然ないのが怖い。異質。「名前」茫洋。「公園の裏の黒い蝉」こえ〜〜。「魚はオイルの中」超好き。アクアリウム感。最後が「海の果実」なのがニクい。凄まじい一枚。Pitchforkに評価されててもおかしくないくらい。邦楽の名盤としてもっと注目が集まるべきだと思います。個人的には54-71の『enClorox』に匹敵する。

 

25. Modest Mouse - Building Nothing out of Something (2000)

Building Nothing out of Something

Building Nothing out of Something

  • モデスト・マウス
  • インディー・ロック
  • ¥1528

music.apple.com

 Modest Mouseの、シングルとかEPの曲を集めたコンピ盤。コンピ盤といってもアルバムとしてすんなり聴ける。USインディーでも特に好き。凡百だがModest Mouseホント〜〜〜に歌詞がいい。「Never Ending Math Equation」出だしがI'm the same as I was as when I was 6 years oldなのも凄いんだけど、Infinity spirals out creationからの一連の歌詞も凄まじくて。「You ain't machines and you ain't land / And the plants and animals they all linked / And the plants and animals eat each other」どうやったらこんなの書けるの??オハイオ出身のバンドで、聴いてると西海岸の塩辛い空気がこっちにまで漂ってくるようでそれもいい。「Broke」も凄く好きで短編の元にしたことがある。「Whenever You Breath Out, I Breath In」は(Geniusによると)双極性障害の曲だそうで、アイザック・ブロックの苦悩がにじみ出ている。このアルバムには入ってないのだがEP『Interstate 8』の「Edit the Sad Parts」という曲がとても好きで。心の支えになった。「I made my shoes shine with black coal / But the polish didn't shine the hole」この一節にだいぶ胸が苦しくなる。感情の機微を捉えるのがひじょうに上手い。人生を八の字の高速道路になぞらえるセンス……。